読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「Forces for Good」と日本の家庭医=地域基板型プライマリケア担当総合診療医の普及

 米国で大きな社会的影響力を持つ12の非営利組織の特長を丁寧に分析し、大きな反響を呼んだ書籍「Forces for good」では、社会貢献型事業を成長させ、成果を出すための6つの組織的行動原則をあげている。

 さて、大きな影響力をもつ非営利団体の6つの特徴は、現在の日本のジェネラリスト集団という「非営利組織」が「価値とミッション」を実現するにあたっての行動原則として非常に示唆に富んでいる。この6つの特徴ごとに具体的行動を構想することが、家庭医を増やすことにつながるのではないかと筆者は考えている。

 ちなみに従来、強い影響力をもつ組織あるいは企業の特徴としてしばしば取り上げれる以下の6つであるが、Forces for Goodでは、社会的にハイ・インパクトな非営利組織については、これらはどれもあてはまらず、いわば「神話」とでもいうべきものであるとされている。

 

神話1:完璧なマネージメント

神話2:よく浸透したブランドネーム

神話3:革新的なアイデア

神話4:文書化されたミッションステートメントがある

神話5:従来型の業績評価指標で高得点

神話6:予算規模が大きい

 

 Forces for Goodに示された研究のインパクトは、従来事業成功の要因とみなされていたこうした要因が、非営利組織においてはかならずしも当てはまらないということにあるだろう。

  それでは、Forces for Goodにしめされた、ハイ・インパクトのための6つの特徴に沿って、家庭医を画期的に増やすための戦略について具体的に考えてみよう。

 

1. Serve and Advocate: 

 政府や自治体との協力協同と革新的政策へ擁護奉仕、あるいは建設的政策提案を実施することである。

 税金でおこなわれる事業に協力すること、あるいはわれわれが行なっている事業を政策化させることである。たとえば自治体などによる寄付講座の設立はそうした文脈で捉える必要がある。

 医学部地域枠も巨大な国庫支出であり、この税金投入にたいしてServeしAdvocateするために行動することがあげられるだろう。

 大学付属教育診療所の設立なども考えたい。たとえば、家庭医が経営的に確立せた教育診療所を大学に人材ごと渡してしまうという手もありうるだろう。

 最近文部科学省から総合診療医の教育に関して大きな予算が計上されたこと、また新専門医制度が既存学会から独立運営されようとしている。こうしたことは、おそらく細かな意見の相違、価値観のちがいがあったとしても、擁護協力に積極的になることが、ハイインパクトに繋がる可能性がある。

 

2. Make Markets Work: 

 すでにある市場がもっている力を生かすことである。

  すでにあるプライマリケアの場がもっている力(経済・医療マーケット)を生かすこと、なんかんずく既存プライマリケア医、あるいは現在スペシャリストだが諸事情によりプライマリケアをせざるを得ない医師への援助支援、コミュニティづくりをすすめることである。すでにあるプライマリケア経済をよりわれわれの価値とミッションにあうように生かすことを考えたい。

 また、家庭医療がビジネスモデルとして有力であることを示していくことも重要であろう。たとえば以下のようなアイデアがありうる。

 *マイクロプラクティスからグループプラクティスまで、さまざまな診療所モデルの提示

 *在宅医療とそのバックアップ的機能をもつ地域小病院での家庭医というモデルの提示~地方自治体の政策とのリンク

*すでに診療所展開をしている医療機関連合体による共同出資による、家庭医療診療所の運営などについてのコンサルタントエージェンシーの設立、同時に家庭医療診療所評価機構の設立

 

 3. Inspire Evangelists: 

 エバンジェリスト、サポーターを養成することである。

  「団体の周りにいる人たちが、団体の掲げているミッション実現のために自分自身で何をしたら良いか考え、自分で動いていくからこそ、個の団体の力を乗り越えることができるのです。ここでポイントとなるのが、共感に基づいて、事業や活動を紹介したり、拡充したりする行動を、自らやりたいと思って動く人の存在です。近年、そのような人を「 evangelist(エヴァンジェリスト)」と呼ぶことが増えています。」(広石拓司)

  この点に関しては、3つアイデアを提示したい。

1.比較的家庭医療から遠いところにいるプライマリケア従事者に伝わり、また彼らが伝えたくなるシンプルなメッセージを、現代のメディアとリンクさせて発信していくことである。

2.卒前教育への参入を意識的におこなうことである。大学教員への家庭医の戦略的配置が必要であり、地域医療教育にとどまらず、大学の医学教育の、特にコアの部分である、「評価」に深くかかわり貢献することである。そして、最終的にカリキュラム構築に影響を及ぼせるポジションを意識的に追求することが求められるだろう。

3.さらに市民レベル、非医療者の声の動員を、意識的に追求することである。各種コミュニティ、対話カフェなど、あたらしい人の集まりの形態を支援することである。講演会だの従来型の市民講座などは有効でない時代となっている。

 

4. Nurture Nonprofit Networks: 

 類似の価値観や目標をもつ団体を絆ぎ、あるいはそれらの団体を援助することである。 関連学会とのコラボレーション。特に救急医学会、内科学系会、小児科系学会、老年病系学会、在宅系医学会、東洋系医学会などに「貢献」できるように動く。Contributeする。特にリサーチ、教育については強力に貢献することである。

 他団体のためにこの身を捧げるくらいの気概があったほうが、最終的には社会を帰る力にむすびつくことを「Forces for Good」は教えている。

 

5. Master the Art of Adaptation: 

 現状の仕組みや、やり方に固執せず、変化する環境に柔軟に対応する力をもつ。言葉の定義、メンバーシップ、設立時のリーダー達の志向性を重視しない。あくまで、価値とミッションの実現を第一にして行動する。

 

6. Share Leadership: 

 カリスマ型リーダーがはじまりの時点では必要だが、そのリーダーシップを様々に移譲していくことで、Sustainabilityを確保したい。また次世代リーダーを意識的に養成していくことを行う。

 注意しなければいけないのは、リーダーがやる気をなくすとそのコミュニティや組織は終焉を迎えるが、リーダーのエコロジカルなサイクルも必要になるのであってみれば、リーダーが楽しく事業に関われるような構造との両立が求められる。

 

 以上、「家庭医を画期的に増やす」ということに関して、「Forces for Good」に示された研究結果に沿って素描してみた。このテーマは、とりもなおさず、家庭医をはじめとしたPrimary care generalistの集団が、社会的にハイ・インパクトをもつ集団にTransformするにはどうしたらいいのかということでもある。こうした行動原則をいかに具体的活動に落としこんでいくか、さらなる対話を各方面とつづけていきたい。

 

 参考文献:Leslie Crutchfield and Heather McLeod Grant: Forces for Good: The Six Practices of High-Impact Nonprofits. Jossey-Bass, October 2007

(このエントリーはわたくしが2012春に発表したものを改変したものです)