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家庭医と看護教育者との対話 パート2

看護研究の成果をプライマリ・ケアにつなげる

看護教育者 では,看護研究や実践の成果をプライマリ・ケア医に伝える仕組み作りは,どうしていったらいいのでしょう?

家庭医 おそらく診療所の看護師が,そういう研究や実践を学ぶ機会が多くあることが重要になります.実際にそのイルネスに対して介入し,ケアをする看護師たちへの教育活動,あるいはリサーチマインドなどについて,アプローチしやすくしてあげるというのはどうですか?

看護教育者 確かに,研究や実践成果を発信することが,まだまだ看護職は下手ですから.看護の世界のなかでは理解できるのだけれど,他の世界には伝えられないという自分たちの力の弱さもあります.もっともっと,看護が看護として発展してきたことをわかるように伝えていかなければいけませんね.

 

看護師のもつジェネラリティとコミュニティ・ケアの視点

家庭医 看護師には継続性やジェネラリティ,全体を見ていく発想があることが先生のお話を聞くことでわかりますけれど,僕らが目にする現在の看護界は,どちらかというと特定領域を深くやっていく看護師を育てようという方向を強く感じるのです.オンコロジーナースや小児・母子看護と,さまざまな専門看護師がいます.いま,若い方はそちらに関心があるんですか.皆,一度は考えます?

看護教育者 いやあ,どうかな.うちの学生を見ているかぎり,4年間で卒業してまずはしっかり臨床に出て,その後のスキルアップのなかで,認定を取るなり大学に戻るなり,というのはありますが.でもそうはいっても,まず看護師の価値づけとして,ジェネラルだという考え方が大前提にあるわけです.だから,言葉だとすごく矛盾するように聞こえるかもしれないけれど,看護はジェネラルであることのスペシャリストだと思うんですよ.

家庭医 それ,家庭医がよく使うフレーズなんだけど(笑).

看護教育者 たとえば高齢者看護の専門看護師が,高齢者の特性やその人の生活背景,生い立ち,生活史などもみながら,その人の生活を支えるために,いかにその人を深く広く全体としてみられるかということになります.

家庭医 なるほど.医学の世界では,ジェネラリストという価値観はまだカウンターカルチャーなんですよね.病院という近代システムでは,「ゆき過ぎた専門性」と表現されますが,患者をシステムにのりやすいパーツの集合体としてとらえるので,ジェネラルはすごく存在しにくいのです.となると,実は病院の職種のなかではジェネラリストの哲学を一番反映している人は,看護師なんですね.
 それから,保健師の業務とされている「コミュニティをみること」,もともと看護そのものの本質だそうですね?集団や地域へのアプローチがまたすごくおもしろい。

看護教育者 はい.私は看護師も保健師助産師も一体の教育・統合教育を受けたから,とくにそう思います.なかには病人をみるのが看護で,健康な人をみるのは保健師だという方々もいらっしゃいますが.

家庭医 そもそもナイチンゲールの疫学的視点は強力ですよね.病棟の窓を開けて換気をしろと言っています.最終的には個別ケアかもしれないけれど,まずは集団をみていますよね.だから,看護の視点には個別性もあるし,個別性には家族もあり地域もある、人口集団も対象となってますよね、もともと。

看護教育者 そうです.だって個の存在は家族や地域抜きにはないんですもの.

家庭医 その発想も,非常に家庭医に通じるんですよね.僕は,どちらかというと個別看護しか知らなかったけれど,もともと看護の本質に特定の人口集団をみる視点があるということなんですね.

 

診療所看護の新たな可能性

看護教育者 先日,先生の浮間診療所を一日見学させていただきました。自分の原点に立ち返ったような気持ちがして,非常におもしろかったです.診療所看護は継続して個をみながら,家族や地域の健康をみていける分野だと思ったんです.長く継続的にフォローしているがゆえに,息子さんが患者さんとして来られた時に,「おばあちゃんの様子どう?」と,息子さんを通しておばあちゃんの看護もできるし,家族の看護もできるというポジションです.いろいろな可能性がありますよね.

家庭医 看護も本来ジェネラリストですから,診療所は個別性と地域も含めて看護する場所として見直されるべきかと思います.それに看護師はプライマリ・ケアの現場で,ジェネラリスト医師たちともっと協働できる職種だと思います.しかし,伝統的に診療所の看護は非常にステータスが低くて,いまもキャリアにならないとさえいわれています.先生はどう思われますか?
 診療所での看護師というと,准看制度や開業医の先生の助手といった,過去のイメージがありますね.僕の生家のまん前がかかりつけ医だったのですが,朝,必ず若い子が掃除して,朝ごはんをつくってから青い制服に着替えて学校へ出かけて行くんですよ.

看護教育者 準看学校はもともと開業医が自分の診療所の手助けをする人を育成するために作られたのです.その学校に行く合い間に自分のところでお手伝いをさせる―そんな歴史がありました.いまは准看学校には大卒の20代後半,30代の方が資格を取るために入学するという変化がありますが.
 また外来での看護師の話だと,たとえば産休明けの看護師は夜勤ができないから外来担当になるというような文化もあったりして,心理的な事情もちょっと不幸だと思います.
 ただ現在は,入院期間が短くなったので外来でも検査や治療がどんどん行われます.そうすると外来看護も非常に高度な知識と対応が必要だと思うんですよね.

家庭医 健康転換の視点からみると、以前の診療所看護のスタイルは,どちらかというとケガの処置や感染症治療の介助中心のモデルかと思うんですが,それが慢性疾患になり,いよいよ高齢者医療となると,診療所看護もおそらく変化すると思いますよ.まさに看護的なアプローチやチーム形成をしないかぎりは,まともなケアはできなくなるでしょう.すでにいまは地域で高齢者をみる時代になってきているし,在宅も含めて,ジェネラリストとしての看護師はもっと地域に出るべきだと思う.コミュニティレベルをみられるようなジェネラリスト看護師が登場して,その能力を生かしてほしい.

看護教育者 診療所にはそれこそ先生が言う家庭医療があるかもしれませんけれど,さらにいうと地域の保健・医療・福祉の拠点になると思うのです.看護師は,医療の部分も生活の部分もみられて,患者さんと行政と橋渡しをするコーディネート機能もアプローチ方法としてもっています.それをうまく発揮できる人材が診療所に配置されると,診療所は本当に地域の健康拠点になると思うのです.

家庭医 へき地ではそういう人が求められていますが,早晩,高齢者人口の増える都市部でも必ず求められるようになるはずです.だから,やる気のある看護職の流れがへき地から始まって,東京などの都市部にもやって来るでしょう.地域医療、地域看護の拠点としての診療所というような展望が必要ですね。

看護教育者 いいですね.これからそういう人材が増えてくると思いますよ.私もそういう人たちを育てたい.

 

パート2はここまでです。

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 この対話の一部はJIM 2010年7月号に掲載されています。