多職種協働の典型としてのEvidence based practiceの実装

 先日千葉看護学会でIowa大学の看護師で、看護研究者のローラ・カレン先生のEvidence based PracticeのIowa大学病院の医療への実装(Implementation)に関する、2時間のレクチャーを拝聴する機会があったが、非常に感銘をうけた。

 EBMの実践はどちらかというと、医師に関しては個々の医師の診療行為を対象としているという印象があったが、今回の講演をきいて、看護に関しては、むしろ組織的に取り組み、それをSustainableなシステムに組み上げていき、実践評価のPDCAをサイクルを回転させていくというところに重点がおかれていたと感じた。

 実例として頭頸部がんの治療中に生じる口内炎に関する看護についてとりあげていた。現在やっている口内炎のケアが本当に有効なのか?というベッドサイドの看護師の疑問が生じ、それに興味をもつグループ(多職種)を形成し、Evidenceを収集評価し、現時点で最良とおもわれるケアのプロセスをクリエイトして、それを実際にやってみて評価する。それれを病院の管理部が評価し、全体のパスとして採用し、基準化する、というような道筋である。

 このように記述してみれば、簡単なようにみえるが、これらのすべての段階で、コミュニケーションのあり方、グループ・ダイナミクス、システム変更のための政治力学とコントロールといったことに関連した、きわめて複雑なバリアが多数存在する。こうしたバリアの詳細に検討している中心に看護師がいることにも注目した。そうした看護師を中心に豊富な実践と研究の蓄積され、EBP実装のモデルとしてのIowaモデルが構築されている。

 EBP実装は、おそらく、研究施設で生成されたEvidenceが実際の医療現場で有効に機能するかということを研究する、いわゆる第2世代橋渡し研究(2nd generation translational research)とプロセスは同じだろうが、重要な違いは、EBP実装は目の前の患者のケアをもっと改善しなければならない、あるいはなぜ現在のケアはうまくいかないのだろうという、差し迫った医療現場の関心からスタートしている点である。看護がその中心にいるのが非常に示唆的である。カレン先生は、スタッフナースこそ、その施設の医療の質、ケアのアウトカムを改善させるキーであり、EBP実装の実態であるともおっしゃっていた。

 ケアのEvicenceはまだまだ蓄積が不十分であり、Evidenceを生成する研究もすすめなければならないが、現在それほど質の高いとはいえないEvidenceしかなくても、それらの論文のReview(Systematic reviewを自前でやるのである)とExpertiseから、説得力のある解決案を練り上げ、それを組織内にびBuild inするような試みは「オレ流」医療やケアが多い日本でもかならず必要になる。

 そしてIowaモデルの実践は、システム(Micro-Meso-Macroすべてのレベルを含む)をつねにそのターゲットとしているという点で、多職種連携そのものであるとも言える。  

 Interprofessional work(IPW)の典型としてのEvidence based practiceの実装は、日本の病院やプライマリ・ケアでの実践が求められると思う。その実践の中心となるだろう看護領域のリーダー養成のための教育プログラムも開発したいところである。

 

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