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慢性疾患のケアとHealth Systems Architectとしての家庭医の役割

 地域基盤型のプライマリ・ケアを主たる任務とする総合診療医,すなわち家庭医にとって,慢性の健康問題のケアは極めて重要な課題である.

 たとえば7年前の脳梗塞により,右不全片麻痺があり,高血圧症のある69歳の男性のケアを考えてみよう.この患者の問題点を(1)高血圧症,(2)脳梗塞後遺症の2点で内科外来フォローアップ中であるという記載はしばしば目にする.脳梗塞後遺症は固定しているので,内科的ケアの範囲外というふうにされるかもしれない.

 しかし,脳梗塞後の人生は長い.家庭医はそうした人生の伴走者のひとりとしての役割があり,単に血圧のコントロールを良好に保つことがこの患者のケアであるとはいえないものである.ここで脳卒中サバイバー(Stroke survivors)に必要なケアは何かを抽出してみよう.

1.脳梗塞の再発予防
リスク因子である高血圧症をはじめ,無症候性の心房細動の存在にも注意する必要がある.

2.併存疾患の治療
長い経過の中で様々な症状や健康問題が生じるが,それらに最初に対処するのはかかりつけ医である家庭医となる.

3.リハビリテーション
定期的に生活機能を評価し,適切なリハビリテーションサービスとの連携を行う.

4.栄養・嚥下
嚥下障害の評価や栄養評価を定期的に行う.

5.認知機能
徐々に認知能が低下してくることも多く,定期的な評価介入を行う.

6.各種予防医療
転倒,骨粗しょう症,肺炎球菌ワクチンなど,高齢者に必要な予防医療を行う.

7.介護者へのケア
介護者の健康管理も平行して行う.

8.脳卒中の発症予防のシステムを施設内で構築する
たとえば,脳卒中の予防のための高血圧管理の重要性などを施設を訪れた患者に啓発するためのポスターやパンフレットを作ったりすることである.

 こうしたアジェンダは医師だけで実施することは不可能であり,看護職や各種セラピスト,事務系職員等専門職連携が必須である.

 以前,オレゴン健康科学大学家庭医療科のJohn Saulz主任教授のオフィスを訪問をした際に,筆者が「先生は家庭医の仕事の本質はどこにあるとお考えですか?」と聞いたところ「Interpersonal continuityの担い手でありHealth systems architectであることですね」と答えられた.家庭医は継続ケアの担い手であり,各種ヘルスケアシステム(診療所レベルから国家レベルまで)を建築する人であるという定義は,たとえば上述した脳卒中サバイバーのケアのアジェンダをみるとしっくりくる.それは、患者の地域での生活を「継続的」に下支えするために必要なアジェンダである.そして,施設に通院している高血圧や心房細動の患者の,そして地域住民の脳卒中の発症を減らしていこうというシステムをどう構築していくかというプロジェクトに取り組むことはHealth systems architectとしてのアジェンダである.

 慢性疾患のケアとは,当該疾患の「コントロール」にとどまらない広がりが必要であり,総合診療の行動原則である「包括性」とはこうしたことを意味しているはずである。包括性とは地域包括ケアの「包括」とは違うという認識が必要だろう。

 

 

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以上はjJIM 2014年10月号Editorialとして発表したものをリマスタリングしたものです。

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