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Evidence based practiceの実装は如何にして可能なのか?

 遅ればせながら、今年もよろしくお願い致します。

 

 さて、Evidence based practiceを現場に実装すること。あるいはGood Practiceを現場に導入、定着させることは、エビデンスの構築と同等あるいはそれ以上にむずかしいと思われる。

 たとえば、ある医療現場であるケア内容がスタンダードに達していない場合に、それをスタンダードなものにするためにはどうしたらよいだろうか。管理部からの指示文書?各セクションの会議での意思統一?あるいは学習会の開催?あたりが思い浮かぶ。一般に診療の質向上(Quality Improvement)といわれている活動に近いだろう。しかし、そうしたエビデンスの実装と定着をむずかしくするバリアの多い職場も多い。

 Ploeg(文献1)らによれば、カナダの在宅ケアの組織に属するステーションと現場のケア提供者はそうしたバリアがたくさんあるもようである。たとえば、実際の労働量の過重さ、訪問する患者が地域に散在していることによる移動の時間と必然的な非効率性、スタッフにパートタイマーが多く、また職員の離職率も高い。さらには在宅現場には電子カルテが導入されていないことが多いなど、だとのことである。

 Ploegらは、高齢者ケアに関するEBP(転倒予防、痛みへのケア、下肢潰瘍のケア)実装に取り組んでいる在宅ケア組織の様々な職員にインタビューし、Grounded Theoryによる緻密な分析により、在宅ケアという現場にEBPを実装・定着するプロセスのモデルを抽出した(文献1)。

 かれらはEBP実装という言葉ではなく、Good PracticeのSpreadという言葉をつかっているが、意味するところはほぼ同じである。彼らによれば、Spreadのフェーズは、以下の5つである。

1.変革へのコミットメント
2.小規模での実装~お試し
3.そのサイトがケアしている患者への適用
4.組織の他のサイトとその患者への普及
5.組織外部への拡散普及

 この外部への拡散普及については、論文だったり、プレゼンだったりにとどまっていて、この「真」の拡散についてはこれからの課題となるとのことである。

 さて、このSpreadのフェーズをファシリテートする要因は、以下の3つである。
1.情熱があり、献身的な様々なたちばのリーダーと、現場のチャンピオン(支柱的な人)がスタート時点では必要
2.教育・コーチング、評価とフィードバックというような方略を継続的に行うことが維持に必要
3.ケア提供者とケアの対象(患者)のベネフィットを可視化することが必要

 これらをふまえて、かれらはSpreadのプロセスの複雑な絡み合いを表現するために、以下のフェーズが螺旋状に進む概念モデルを提示している。

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 上記図は、Ploeg et al. Implementation Science 2014, 9:162 (http://www.implementationscience.com/content/9/1/162)より引用

 

 この図は、おおまかにいって一般的なQIプロセスにおける、PDSAサイクルを思わせるが、このサイクルを回すプロセスの複雑さは、ヘルスケア領域そして、特に在宅ケア領域ではより顕著になるだろうと思う。この図はそのあたりの事情をよく反映していると思う。

 では日本ではどう考えるか?
 日本の場合、たとえば訪問看護ステーションを大規模に展開しているような法人は少なく、単独あるいは小規模なグループで運営している場合が多いのではないかと思う。大規模組織でのEBP実装の特別な困難さは、小規模組織ではないのだろうか?いや、むしろ、Ploegらの提示したモデルと違うモデルが必要なのかもしれないと思う。それを明らかにするためには、日本の訪問看護の現場におけるEBP実装と定着に関する質的研究が必要だろう。

 また今後、日本版ビュートゾルフ(文献2)のような組織が現れてくる可能性があるが、その際にはEBM実装のために、Ploegらの検討が非常によい示唆になるに違いない。

文献1:Ploeg et al. Spreading and sustaining best practices for home
care of older adults: a grounded theory study. Implementation Science, 9:162,2014

文献2:宮崎和加子. "Buurtzorg との違いに学んだ今日本で取り組むべきこと―訪問看護団体として視察して." 訪問看護と介護 19(6), 454-458, 2014

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