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専門職連携教育はなぜ必要とされているのか?

 専門職連携Interprofessional work(IPW)はいま日本の医療、介護、福祉の領域の教育においてはブームになっているといってよいだろう。むかしからチーム医療というのは、重視すべきと言われ続けてきたが、特に近年強調されるのはなぜか?ということに注目したい。専門職連携教育(Interprofessional Education:IPE)が強調される理由についてすこし考えてみたい。

 IPEの定義(文献1) は英国のIPE組織である英国専門職教育推進センター(Centre for the Advancement of Interprofessional Education:CAIPE)の提案しているものが広く受け入れられている。

「2 つ以上の専門職者が、連携・恊働の質、ケアの質を向上させるために、共に学び、お互いから学び合いながら、お互いについて学ぶ機会」

 IPEが現代日本の医療の世界で注目されている理由として、以下の2点が重要であると考えられる。


1.医療の高度化、細分化、分業化が急速に進んでいると同時に、医療の安全性と質の保証への要求水準が非常に高くなってきていること。
2.超高齢社会を迎えつつある地域のなかで、身体心理社会倫理的な要因がからみあう複雑で困難な健康問題にチームで取り組む機会が急速に増加してきたこと。

 

 医療はもともと多くの領域の異なる専門職により担われてきたが、従来それぞれの専門職は独自の知識技術構造と教育システムをもち、一定の排他的な世界を構築してきた。しかし、上述の状況に対してこのような従来型専門職のあり方をもってしては、適切に対応できないことが指摘されており、その理由として佐伯 (文献2)は以下3点をあげている。


1.個人で仕事を行うことの限界性:医療技術の複雑化、細分化の中で自分の専門領域のみで治療・ケアを行うことは不可能になってきている
2.専門職種の縦割りで仕事をすることの限界性:専門職間の連携不全が医療事故やケアの質の低下につながることが認識されている
3.(患者の問題)領域を一つに絞って仕事を行うことの限界性:疾病のみでなく生活する人として患者や家族をとらえケアすることに、医療のパラダイムがシフトしてきている

 例えば、医師という職種には「主治医としてすべての責任を負い」「他の専門職種へ権限は移譲せず」「患者の生物医学的側面だけをとりあつかう」といった傾向が従来から強いとされてきた。しかしながらSabaら(文献3) は、そうした伝統的な医師のモデルをLone physician model(孤高の医師モデル)と呼び、それはすでに現代の医療においては神話にすぎないとして、「協働」と「連携」そして「患者中心性」を軸とした医師の職業モデルが必要であると主張しているが、これは日本においても適用できる視点であろう。

 では、そうした医療者に必要な教育とはどのようなものであろうか。Thistlethwait ら(文献4)は、IPEの観点から医療専門職の教育目標を整理しており、以下の3つの領域を提示している。


1.個々の専門職に特異的な目標:個々の専門職で従来教育されてきた知識、技術、態度
2.2~3の専門職で共通の目標:専門職で共有する医療内容を支える知識、技術、態度。例として血管確保、患者中心の姿勢、それらに関連した解剖学、生物学、心理学
3.全ての専門職に必要な一般的能力(Generic competencies):チームワーク、役割と責任、コミュニケーション、自己決定型学習と省察、全人的アプローチ、倫理的思考

 医療者が現代医療の現場で有効に働けるためには、従来個々の専門職領域で設定してきた教育目標(コンピテンシー)に加えて、それらを下支えする上述の3の一般能力の獲得が必須であろう。そして、IPE教育プログラムでは特に3.の一般能力にフォーカスをあてているものが多いところに注目したい。

 さて、医療者教育は、フォーマルな養成プログラムで終了するのではなく、その後につづく専門職としての生涯学習(Continuing professional development:CPD)による持続的な成長が必要である。そして、従来型の各専門職固有の知識や技術のアップデートだけでなく、上述したようにコミュニケーションや省察などの一般能力の涵養なしでは良いパフォーマンスを示すことができないのであってみれば、専門職における卒前、卒後、生涯教育において一貫して上述のIPE関連一般能力の成長が求められているといえるだろう。

 では、IPE普及=Spreadの方略はなにか?それが今後の課題であるが、一定のヴィジョンは見えてきているように思う。それは、医療者教育におけるこの30年の2つの革命の視点を基盤とすることである。その一つはProblem based learning:PBLであり、もう一つはCommunity Oriented Edcucation:地域指向性教育であり、もともとチームワークや地域指向性教育の重要なコンポーネントとしてあった。つまりIPEはCommunity oriented educationを地域と病院=施設の双方に導入するという力学を持つ点で重要だということである。

 この場合留意したいのは、地域指向性教育とは、地域の現場での教育とイコールではないということである。現時点ではIPEの主役は地域医療の現場にあるというような動きが日本では目立つ。「IPEは地域におまかせします」というスタイルになると、病院と地域の間の壁はますます高くなり、逆説的に病院中心主義がさらに進展すると予想される。重要なのは、IPEが地域と病院の壁を越境する可能性を信じることであり、IPEが現代日本で期待されているヘルスケアシステムにおける病院の脱中心化のドライブになる方向性を見失わないことである。

 そこにヴィジョンのキーがあると考えている。

 

文献1:CAIPE ホームページ「IPE の定義」http://caipe.org.uk/resources/defining-ipe/
文献2:佐伯知子. IPE (InterProfessional Education) をめぐる経緯と現状, 課題: 医療専門職養成の動向を中心に. 京都大学生涯教育フィールド研究 2:9-19, 2014
文献3:Saba GW., et al. The myth of the lone physician: toward a collaborative alternative. The Annals of Family Medicine 10:169-173, 2012
文献4:Thistlethwaite J., et al. Learning outcomes for interprofessional education (IPE): Literature review and synthesis. Journal of interprofessional care 24:503-513, 2010

 

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