エキスパート・ジェネラリストとは何ができる人のことなのか?(承前)

 一体ジェネラリスト医師の特徴とか特異性はどこにあるのか?ということにはそれなりに関心がある。たとえば、継続ケアとか診療の幅広さとか心理社会的な問題への対応とかを上げると、他科医師から「あ、それはオレだってやってるよ」っていわれてしまうような体験はジェネラリストならだれにもあると思う。

 今回のエントリーはまったくの素描で、あまり論旨が明確ではありませんが、いろいろ書き綴ってみます。

 例えばMultimorbidity(併存疾患を多く持った状態のこと、日本語は対応するものがまだない)に対してはRCTやそれに基づくガイドラインによる医療の限界が指摘されており,より臨床の現実に近い研究手法としてComplex Intervention:CIIが検討されている.CIは介入を効能研究のように単純に設定せず,介入が種々の“複雑さ”を伴うという前提で扱うモデルである.
CIの構成要素は宋ら のまとめに従うと,以下のとおりである.

  • 介入において相互作用を持つ要素が多い
  • 介入の提供・受診側の両者の行動上に多くの結果規定要因が認められる
  • 介入ターゲットとなるグループ数が多い
  • 対象組織レベルが多様である
  • 測定アウトカム数が多い
  • アウトカム自体の不確定要素が多い
  • 許されうる介入の柔軟性や裁量的運用の程度に関する規定の必要性がある

 地域医療の現場で複雑性に取り組むという活動は,このCIをアクション・リサーチとして実施しているという位置づけも可能かもしれない.で、このアクション・リサーチにおいては、CIという介入をいかに現場に実装するか、ということが問題になってくるだろう.そして,CIも含めて様々な新しいイノベーションをいかに日常の業務に定着・継続させるかという研究分野として実装科学(Implementation science)に注目したい. 特にヘルスケア領域においては,Mayら によるNormalization Process Theory:NPTが有力な実装理論として確立しつつあり,NPTの枠組みに基づくCIのプライマリ・ケアへの実装研究 も蓄積されつつある.Complex Interventionと実装科学が,複雑事例やMultimorbidityのようなこれまでの効能研究では対応できない領域の研究手法として今後期待されるだろう.

 Normalizationというのは、フツーに実施できるようにするって意味で。ようは、イノベーション、新しい取り組み、あるいは質改善の取り組みを、フツーにできるようになるための個人と組織のプロセスを説明使用っていう理論。中間理論というNPTはImplementation scineceの領域の話です。


Finchらにより提示されたNPTの構成要素は、以下の4つの領域。
1.Coherence 組織やその構成員が新しい実践提案を意味あるものとして理解できるプロセスに関する領域
2.Cognitive Participation 組織やその構成員が新しい実践提案に関わろうとするプロセスに関する領域
3.Collective Action 組織やその構成員が新しい実践を実行するプロセスに関する領域
4.Reflective Monitoring 新しい実践を実施後、振り返りによる評価吟味を行うプロセスに関する領域

 この4つの領域と対象となる領域の構成要素、たとえば患者、医者、看護師、組織とか、でマトリックスを作って質的データなどをそれに当てはめて分析していくってイメージです。
 Expert Generalistの特徴をComplexな状況にたいしての介入研究としてのComplex interventionの実践と考えた時に、その実践は組織や他のメンバーとの関連でおこなわれるわけなので、NPTを意識して組織やスタッフに実装するっていうことも実はGeneralistの特徴といえるのかもしれない。

 Complex interventionのNPT理論に基づく実装実践がExpert generalistならでは専門性といえるかもしれない。

 おそらくジェネラリスト医師が他の医師にない特徴があるとすれば、それはおそらく、ACCCAとか、あるいは継続性や包括性、あるいは患者中心性でもなく、Complex interventionにあるのではないかという直感をもうすこし整理したことばで表現しなければならない。  

参考文献

Reeve J., Blakeman T., Freeman G. K., et al.: Generalist solutions to complex problems: generating practice-based evidence-the example of managing multi-morbidity. BMC family Practice 14.1: 112, 2013

宗未来, 山口創生.: 我が国の精神医療におけるコンプレックス・インターベンションの可能性―複雑な臨床要素を疫学研究に生かす,Shrinking Shrinker “役割を失う精神科医”時代の新たな方法論―.精神神経学雑誌別冊: SS691-SS700, 2013

May, C. R., Mair, F. S., Dowrick, C. F., et al.: Process evaluation for complex interventions in primary care: understanding trials using the normalization process model. BMC Family Practice 8(1): 42, 2007

 

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