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総合診療医養成のKey Issues

 最近時節柄?総合診療医の専門研修に関して,お呼ばれしてお話することが増えました。このところお話している内容をまとめてみました。

 

総合診療専門医のコアとなる6つの能力

 総合診療専門医に必要な6つのコアコンピテンシー(日本専門医機構)とは、1.人間中心の医療 2.ケア包括的統合アプローチ 3.連携重視のマネージメント 4.地域志向アプローチ 5.公益に資する職業規範 6.診療の場の多様性、とされ、これらは海外におけるプライマリ・ケアの専門医である家庭医やGP(general practitioner)教育におけるコンピテンシーセッティング[1]と相同性がある。そして、これらのコアコンピテンシーの内実の把握が教育設計上必要となるが、従来、医学における専門性(科)は、「対象とする疾患」「年齢・性別」「実施する手技」等によって定義されてきたため、こうしたジェネラリストに独特のコンピテンシー設定は、日本の一般の医師には馴染みがなく、直感的に理解しづらいかもしれない。そこで、総合診療専門医に必要な6つのコンピテンシーは6つを並列にみるのではなく、6つ目の「多様な場での診療ができること」をコアと考え、どのような場にあってものこりの5つのコンピテンシーを場のコンテキストにあわせて発揮することができるという視点からみると理解しやすいだろう。

 ここでは、総合診療専門医に期待される具体的な診療内容(外来、在宅、救急、病棟、地域を含む)を事例も含めて具体的に提示し、総合診療専門医教育の方略の方向性について議論する。

 

病棟診療教育のポイント

 病棟医療における総合診療医に期待される役割は、ほぼ以下のように要約される。これらはある意味で、現在の日本の病棟医療において問題とされている領域であるといえる。

  •  外来、在宅などとシームレスでスムーズな連携が必要なフレイルな高齢者の入院マネージメントができる
  •  他科専門医と連携して、併存疾患の多い患者の治医機能を果たすことができる
  •  心理社会倫理的複雑事例に対して、専門職連携実践(interprofessional work)によりマネージメントができる
  •  地域との連携機能を活用し退院支援ができる
  •  癌及び非癌患者の緩和ケアができる
  •  診断困難事例への対応ができる
  •  安全管理、診療の質保証、院内教育活動など、病院運営に必要なマネージメントチームの一員として役割を果たすことができる

 これらのコンピテンシーの基盤を獲得するためには、珍しい疾患の経験よりも、その施設でよくある病態を経験したほうが、熟練した他の専門職から多くを学ぶことができることもあって適している。重症疾患・希少疾患を診ることができるなら、軽症疾患・日常病を診ることはできるはずであるという、従来の内科トレーニングの発想は当てはまらない。たとえば、フレイルな高齢者で誤嚥性肺炎や慢性心不全で入退院を繰り返しているような患者をマネージメントすることが、総合診療医に求められる質の高い在宅診療のためのよい研修になることを強調したい。

  手技に関してはその施設の文化や必要性に応じて計画的に習得すればよい。たとえば、地域のリソースの観点から、上部消化管検査を総合診療医が実施することが必要であるとなれば、上部消化管内視鏡検査のトレーニングをカリキュラムに入れることは正当である。総合診療医に必須の侵襲的手技は設定すべきでなく、あくまでコンテキストや本人の希望に応じて目標を設定したい。 

 

病棟診療教育の事例

  病棟での総合診療医の研修や医療活動をよくイメージできるように、事例をいくつかあげて解説する。

 事例1:87歳男性、定期訪問診療を受けていたが,高熱が出現,ADL低下し紹介入院 した。身体診察からは熱源不明 、血液培養実施し,画像診断にて急性胆道感染症と診断 された。入院によるせんもう予防のプロトコール(HELP)も他職種で実施した。

 在宅医療の現場では様々な制約から、病歴、身体診察のみから症状の原因を推定せざるを得ないことがあり、また発熱による生活機能の急速な低下による入院依頼となることも多い。この場合、何科に入院するのが適切かを紹介元が判断できない。こうした診療コンテキストを理解して、入院を受け、診断と治療を行うことが総合診療医には求められるだろう。   

 そして、胆道感染症改善後速やかに在宅医療に移行することができるように、せん妄予防やリハビリテーションの導入などにチームで意識的に取り組むことが必要である。こうした要素はすべて総合診療医の教育コンテンツである。

 事例2:63歳女性、乳がん,多発性骨転移,高カルシウム血症による意識障害で入院 。スタッフ&家族と今後の方向性についてカンファレンスをくりかえし,自宅での最期を希望されており,在宅医療担当グループに移行するためのミーティングを行うことになった。

 日本においては緩和ケアが必要とされる入院患者は一般病棟にいる場合が多い。一般病棟入院中のがん患者の緩和ケアや在宅緩和ケアの導入などは、総合診療に求められている重要な任務である。がん及び非がん患者の緩和ケアは総合診療医の教育コンテンツとして重視される。また、地域の在宅チームとの様々な架け橋になることも重要なで、ミーティングの運営技術もふくめて様々なマネージメントスキルにかんする学びも必要であろう。

 事例3:70歳男性 、くりかえす失神発作の原因精査目的で紹介入院。入院後洞機能不全症候群の可能性が高く、循環器内科にコンサルテーション,PPM挿入となった 。基礎疾患に糖尿病がありインスリン導入を実施 。

 診断困難事例のマネージメントを様々な専門家にコンサルテーションしながら行うことも総合診療医の病棟における役割として求められている。総合診療医は必ずしも「診断専門医」である必要はない。様々な情報を統合し、主治医として患者とよく話し合い、ゴールを設定してくような姿勢が期待されている。

 

プライマリ・ケア外来診療教育

 プライマリ・ケアにおける非選択的外来ができることが目標となるが、これは年齢、性別、臓器、健康問題に種類によらず、初期診療や継続診療ができることを意味する。そして、総合診療専門研修においてもっとも重視すべき領域である。

  日本では、特に内科領域においては病棟医療がトレーニングの中心であり、「病棟診療ができれば外来診療はできるはずだ」という誤った医学教育観が長く保持されている。しかし、海外の家庭医療やGPの領域における様々な研究結果によれば、外来診療は、独自の教育コンテンツをもち、それとして教育され、評価されなければならないとされる。残念ながら、日本においてはプライマリ・ケア外来診療領域の研究も教育もほとんどなされてこなかった。また、本来実施すべき価値の高い医療(High value care)であるヘルスメインテナンスや、外来医療の重要なタスクのひとつである受療行動の指導などが行われていないことも多い。また、おそらく今後の日本の外来における総合診療教育を有効なものにするためには、外来医療自体のシステムや制度にも工夫が必要でである。総じて、教育の場、方略、評価にイノベーションが必要である。

 教育コンテンツとしてとくに重要なのは、慢性疾患ケア、老年医学(geriatrics)、こどもの成長発達支援(予防接種や健診など)、多疾患併存(multimorbidity)のマネージメント、外来患者集団をpopulation at riskとして捉え診療の質改善に取り組むこと、などがあげられる。

 

外来診療指導の実際

 まず、かぜ症状を主訴に外来受診した患者に関する教育内容について考えてみよう。17歳の女子高校生が3日前より生じた咽頭痛で来院。咽頭所見より溶連菌感染を考え、迅速検査で陽性反応あり。抗菌薬を10日処方した。

 この事例においては、急性咽頭感染症の鑑別診断と治療が指導内容になるだろうが、総合診療の外来では、めったにあわない思春期の地域住民に医師が出会った場合、何をタスクとすべきかという視点が重要である。たとえば、「タバコは吸ってないよね」「何か他にききたことある?なんでもいいよ」といった声掛けが、意外な健康問題を浮かび上がらせることもあるし、そうでなくてもいつか健康問題を相談したいときのリソースとしてその医師が位置付けられる可能性が高い。カゼは普段接することのない地域住民との出会いのきっかけをつくるものとして位置付けると、なんでもない外来診療の風景が変わってみえるだろう。

 次に、転居してきたばかりの1才の男児が、1週間つづく咳と鼻水で来院した事例を考えてみる。この場合、小児のかぜ症状への対応が教育内容であり、こうした症状から重症になりやすい疾患を念頭においた診断と治療や、母親への説明の仕方が大切であることはいうまでもない。

  そして、連れてきた母親に対して、母子手帳を見ながら妊娠中のトラブル(入院、中毒症、高血圧、タンパク尿などの指摘)がなかったかどうかきいてみたい。実は妊娠中に高血圧を指摘されていたが、実はその後フォローされていなかったかもしれない。また、転居して慣れない育児環境の中で何か気になること、相談したいことはないかどうか気軽にきいてみたい。場合によっては、実家の近くに越してきたが、自分の母親の物忘れが気になっているという話が出てくるかもしれない。こうした、小児の健康問題だけでなく、家族もふくめた相談相手になるためのタスクが総合診療医にはある。

  次に、高齢者の外来診療を取り上げてみる。89才の女性が夜間尿失禁を主訴に来院した事例を考えてみる。通常の医学生物学的診断治療のみで解決可能な健康問題の割合は、虚弱高齢者の場合は約半分である。日本の老年医学の教育は、長く高齢者に特有な疾患の教育にとどまっており、本来の老年医学geriatricsの教育は不充分であったといえるだろう。

 高齢者は漠然とした症状が多いので、まず、この患者はどのような生活をしてるのか、その全体像を、ADL、IADL、認知機能、社会的サポート状況を聴取しないと、問題の真の姿はみえてこない。結局この患者はもともと糖尿病、心不全で他院に通院していた。利尿剤が最近増量され、夜間尿が増えた。もともと膝関節症で動きがおそく、白内障の悪化でくらい廊下をトイレまで歩くのが困難だった。これらの要因が重なって、夜の排尿が間に合わなくなったのである。これらに病態生理学的な因果関係はなく、問題が累積した結果である。虚弱高齢者のプライマリ・ケア外来診療においては、主訴を一旦カッコに入れて、全体を評価することが必要な場合が多い。

 

プライマリ・ケア外来診療の構造

 前述したように日本では、外来診療は病棟医療における診断治療プロセスを外来に適用することであるという誤った考えが従来から根強くある。しかし外来診療の現場に実際出てみれば、そう単純ではないことは、すぐわかるのだが、診断治療以外の部分を、接遇やコミュニケーションの問題とする傾向があり、まともに学ぶ機会がほとんどなかった。そのため、フィードバックを受けたことのない、自己流の外来診療様式が蔓延することになった。しかし、世界的にみると、家庭医療やプライマリ・ケアの世界では、プライマリ・ケア外来診療は、病棟医療とはちがう構造化が必要であり、それとして教育されるものであると捉えるのがスタンダードである。

 もっともシンプルな外来診療モデルはStottら[2]によるプライマリ・ケア外来診療の「4つのタスク」モデルである。これは外来診療のタスクを「急性の問題への対応」「慢性の問題への対応」「予防医療的介入」「適切な受療行動の指導」の4つとするものである。たとえば、外来診療診療後にこの4つの領域に添って指導医と症例を振り返ることによって、このモデルにもとづく診療所が可能になる。さらにもっと洗練された外来診療構造モデル[3][4]もある。

 プライマリ・ケア外来診療の教育は、その構造自体の理論的な学習と、ビデオレビューなどの新しい教育技法の導入の2本立てで取り組むことが必要である。

 

救急医療教育のポイント

 救急医療については一般外来、あるいはプライマリ・ケア外来と違う臨床推論を学ぶことになる。たとえば、腹痛の診療においては、それが同程度の症状であっても、プライマリ・ケアと救急医療では事前確立・検査前確率が異なるため、鑑別診断の優先順位を変化させる必要がある。しかし、これまで医師一般のトレーニングの場が2次ー3次医療機関に設定されていたため、そこにおける臨床推論をプライマリ・ケアの場にそのまま適用しがちであったといえるだろう。総合診療医はそうした場における推論プロセスの違いを使い分けることができるように教育されなければならない。

 総合診療専門研修中だけでなく、生涯教育の観点からも、またプライマリ・ケア外来診療の安全性や質の担保のためにも、救急医療は専門研修修了以降も継続して関わりたい。診療所が主たる仕事の場面であっても、病院の救急医療に一定関わり続けるというスタイルが、あたらしい総合診療医には必要である。

 救急現場でのトレーニングで目標になるのは、重症疾患の治療経験というよりは、一般的な主訴であっても、危険な症状や所見(red flags)を見逃さない能力の獲得であろう。いわゆる北米型ERでの研修が最も教育効果があるといわれる所以である。

 

在宅医療教育のポイント

 今後の超高齢社会と地域包括ケアの時代において在宅医療は重要な医療の場となるが、現代にもとめられる在宅医療は、比較的介護度が高いが医療需要度は低いタイプの患者のケアのことではない。DPCの時代になり、入院患者がトータルにすべての問題をマネージメントされた状態で退院することはなくなり、医療需要度の高い在宅患者が増えてきている。特に急性期対応や在宅緩和ケアを実践できる知識と技術が求められるだろう。

 また、かつては社会的入院という名目で、入院させることで事態を前にすすめることができた地域の複雑困難事例を、入院させずに地域でマネージメントする頻度が急増している。

 おちついた在宅患者の訪問診療、本人の状態が変化ないことを確かめ、介護者と談笑し、定期薬を処方して笑顔で帰っていくようなノスタルジックな往診風景はだんだん少なくなるだろう。逆に、発熱で臨時往診し、身体診察と限られた検査を行い、血液培養をオーダーし、鑑別診断は何か、緊急入院の適応はあるのか、抗菌薬の選択はどうするか、といった行動が必要になる。

 また、在宅医療においては、地域ベースの様々な職種でチームを形成する機会が多いが、ふだんから顔のみえる関係を構築すること、また専門職連携実践の促進因子と阻害因子を理解し、適切なリーダーシップの発揮あるいは移譲を行うことが大切である。

 総合診療研修における在宅医療の経験においては以下に列挙するようなケースをバランスよく受け持ち、多職種参加のカンファレンスを実践できることが目標になる。

  • 緩和ケアを必要とする患者(がん、非がん)
  • 在宅ケアを新規に導入する患者
  • 心理社会的倫理的に問題の多い複雑事例
  • 介護度は高いが医療需要度が低い安定した患者

 

地域ケア教育のポイント

 地域ケアは従来最も医師教育には欠けていた領域であると言える。この場合の「地域」は自治体の区切りではなく、何らかのリスクを共有する人口集団ととらえたほうが良い。市町村単位の人口集団全体を対象にした活動はむしろ公衆衛生や医療政策のテリトリーであろう。

 例えば、自分の病院や施設の外来に通院している90才以上の患者集団に関して、なんらかのヘルスプロモーション活動を行い、あるいは地域にすんでいる子育て中の外国人に対して育児や小児保健にかんする定期的な情報交換の集まりを作るプロジェクトに取り組むような活動が、総合診療医養成プログラムにおける地域ケア研修のイメージである。単発的に住民をあつめて健康講話を開催するようなことも悪くはないが、講話の設計をたとえば教授設計法であるガニエの9教授事象[5]などを参考にして行い、実際に講話の参加者に事後アンケートを評価として得られるようなカリキュラムでないと、「やってみた」以上の教育効果は得られないだろう。

 

おわりに

 総合診療医養成を行うためのキーポイントは、様々なコンテキストの現場でのトレーニング環境をつくるところにある。それは、これまで医師養成の中心であった病棟医療の現場での教育だけでは、総合診療医に期待される社会的役割を果たすコンピテンシーを身に付けることは困難であり、プライマリ・ケア外来診療、軽症~中等症救急診療、在宅ケア、地域ケア等における教育をバランスよく効果的に実施できるための教育イノベーションが必要になるということでもある。

 

参考文献

[1]: 公益社団法人地域医療振興協会診療所委員会(訳). 英国に学ぶ家庭医への道. メディカルサイエンス社, 2013

[2]: Stott H, et al. The exceptional potential in each primary care consultation. Journal of the Royal College of General Practitioners; 29: 201-5, 1979

[3]: Stewart M. Patient-centered medicine: transforming the clinical method. 3rd ed, Radcliffe Publishing 2014

[4]: Neighbour R, 草場鉄周(監訳), The Inner Consultation 内なる診療. 第1版, カイ書林, 2014

[5]: 市川 尚 (著), 根本 淳子 (著), 鈴木 克明 (監修). インストラクショナルデザインの道具箱101. 北大路書房 2016

 

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