Integrated Careと家庭医

 今年のプライマリ・ケア連合学会学術大会で私達のグループが実施した地域包括ケアに関するワークショップでご協力いただいた,兵庫県立大学の筒井教授のレクチャーに非常に感銘を受けました。なぜかというと,地域包括ケアの理論的基盤としてIntegrated Careというコンセプトを理解しないかぎり,地域包括ケアの理解も,そして地域包括ケアに資する家庭医や総合診療医の役割も理解できないということに気づかせていただいたからです。

 そして,最近筒井先生の著書*1を読み,さらに触発されたので,自分の考えを整理するために,久しぶりにブログ・エントリーを作成してみました。

 

 まず,多くの国々はIntegrated careを取り込んだ保健医療介護サービスの提供体制の改革を進めようとしているが,それは基本的にはケア提供をシステム化する際の基盤となる理念であり,患者のケアの改善を量る目的のために提供するサービスを調整するものと捉えられています。
 しかし,Integrated Careの意味はかならずしも統一されているわけではなく,Managed CareやDisease Managementなどの類義語が多く混乱しやすい。特に日本では統合ケアは,多職種協働の意味に捉えられている傾向があり,それは間違いではないものの,それだけでないようです。

 そこで,まずIntegrated careに関するキーワードをつかむことが有用です。それにより全体像が見えるようになります。

 

 最初に,Integrationの4つのタイプ(Nortle&Mackee)について解説してみる

Functional integration:機能的統合

システムのユニットにおける財務管理,人材,戦略的計画,情報仮,品質改良などの機能的統合のこと

Organizational integration:組織的統合

独立した医療機関同士のネットワークの形成や合併,契約,戦略的提携のこと

Professional integration:専門的統合

機関や組織内及び組織間のヘルスケア専門家による協働作業,集団実践であり,契約または戦略的提携で実施されること

Clinical integration:臨床的統合

患者のケアに際して様々なスタッフの機能,活動における協調のこと

 

 次にIntegrationのメカニズムの5つのタイプ(Rosen)について解説する
Systemic integration:システム統合
政策,ルール,規制のフレームワークにおける協調

Normative integration:規範的統合
組織,専門家集団,個人の間での価値観,文化,視点の共有

Organizational integration:組織的統合
資金のプール,業務歩合制といった公的私的な契約的,協調的な統合

Administrative integration:管理的統合
事務管理業務,予算,財政システムの提携

Clinical integration:臨床的統合 
従来からいわれている臨床場面での専門職間のケア提供における連携

 

 さらにIntegrationにはその強度といったものがある(Leutz)

 またIntegrationに必要な強度の程度は,患者ニーズの複雑性と関係する。複雑なほど必要とされる強度が強い。強度の弱い順に並べてみよう。
Fragmentation 

市場における商取引と同レベルで分断された状態~Integrationがもっとも低レベル

Linkage
よく日本の地域保健医療の分野でいわれる「連携が大事」という言説はこのレベルである。日常的な相互理解と必要に応じて他団体に照会して回答がえられるというレベル。顔のみえる関係を日常的につくるということに近い。

Coordination
個々の個人・団体は個々に調整の責任をもち,調整の場をもっているが,特定の状況については協働するレベル。定期的な困難事例検討会を実施しているような状態といえる。おそらく地域ケア会議を定期的に有効に実施しているようなレベルといえるだろう。

Full integration
これは利用者の必要なサービスをオーダーメイド的に作っているような状況のレベル。尾道モデルがこれにあたるという評価がある。

 

 そして,Integrationの幅については以下の2つがある
Vertical integration:垂直的統合
様々なサービス分野を1つの組織でおこなうというイメージである

Horizontal integration:水平的統合
様々なケアの連携を改善していくものというイメージである。

 

 非常に錯綜しているようにみえるが,従来の我々医師がもっている地域の統合ケアのイメージはおそらく信頼Trustに基づく,顔の見える関係づくりというような,ある意味ナイーヴなイメージだったかもしれない。しかし,Integrationとは,もっとシステムや組織マネージメントも含んだ非常に広いパースペクティブを持つものである。

 さて,家庭医としては,こうしたいIntegrationに関する構成概念を整理し,プライマリ・ケアにおけるIntegrated careのモデルを提示しているValentijn*2の以下の図に注目したい。Integrated primary careのアウトカムを,いわゆるTriple aimと設定し,規範的統合と機能的統合を水平軸にして水平統合を個別ケアからポピュレーションケアまで拡大し,統合のレベルをClinicalからSystemまでの4つのレイヤーの層化して垂直統合,水平統合に連結させています。非常にうまく視覚化していると思います。

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 この「カオスの虹」!!と名付けられたモデルは,地域でIntegrated primary careに携わる家庭医が自身の活動を計画したり,評価する際に非常に有用です。ここから,日本のこれからの地域包括ケアの時代における家庭医の役割について考えていきたいものです。

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*1:筒井孝子:地域包括ケアシステム構築のためのマネージメント戦略. 中央法規 2014

*2:Valentijn, Pim P., et al. "Understanding integrated care: a comprehensive conceptual framework based on the integrative functions of primary care."International Journal of Integrated Care 13.1 (2013): 655-679