なぜ省察的実践家としての家庭医なのか?

 地域のかかりつけ医としての家庭医はどのようにして育つのか?これは私自身がどの様に自らを成長させていくかということでもあり、また若い家庭医をどう教育し、育てればいいのかということにもつながります。

 家庭医の仕事の特徴は何でしょうか?たとえば、ある医師が自分に出来ることの一覧を提示し、それに合う患者さんを診ることが、診療だとすれば(Selectiveな診療)、その医師は自分が診るであろう問題に対処するための準備をあらかじめしておくことが可能です。しかし、家庭医が真に地域で機能するためには、非選択的診療(Non-selectiveな診療)すなわち「よろづ相談」を行う必要があります。このよろづ相談というのは、あらかじめ準備しておくことが難しいのです。しかも、「それは自分の専門ではない」ということで、入り口で断ることをしないのが原則です。また、そもそも問題が生物医学的な視点だけでは対応できないこともおおく、心理、家族、地域、社会などの問題が複雑に絡み合っていたりしますし、診断をつけること自体が不適切な場合もあります。そして、意思決定や問題解決の際には、科学的な根拠(エビデンス)だけでなく、患者さんの考え、医師の価値観、メディアやコスト、医師患者関係の文脈などが相互に影響しあいます。

 こうした現実世界の問題解決が出来るプロフェッショナルのことを、教育学の領域では「省察的実践家」と呼びます。この「省察的実践家」は、日々の仕事の中で感じる、驚きや引っ掛かり、また失敗を、きちんと事後的に振り返ることで育ちます。家庭医を目指している若手医師には、日々の医療実践や患者さんとの出会いの中で感じる様々な気づきを流すことなく記録するように指導しています。これは医学的なものを超えて、患者さんの生活、チーム医療、社会的な問題など、様々な領域に及びます。それを、定期的に集団やチームで振り返ることで彼らは多くを学んでいます。これは家庭医の生涯にわたる学び方そのものでもあるのです。

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