お節介な家庭医療がめざすこと

 25歳の男性が、咽喉が痛く、37.5度の熱があるとのことで、ある日診療所を訪れました。所見からウイルス性の咽頭炎つまりは、「カゼ」という診断をしました。ここで、薬を処方し、診察を終了するというのが、まあ普通の診療ですし、それ自体は正しい診療です。しかし、家庭医療学の観点から見た場合は、さらにいろいろ考える必要があります。

 

 処方箋を書きながら「他にかぜ引いている人います?あ,何人暮らしですか?」みたいな感じで、家族構成を聞きます。すると、23歳の妻と6ヶ月の息子の3人暮らしであることがわかりました。この時期の家族が直面する課題は子育てといっていいでしょう。「子育て大変ですか?」「奥さんの手伝いをしてます?笑」とさりげなくたずねると、もしかしたら育児に関する困難があることがわかるかもしれません。場合によっては、家庭医として、彼の妻の相談にのれること(産後うつ、妊娠中に指摘され放置されている高血圧や蛋白尿など)があるかもしれません。

 

 さらにこの患者さんは喫煙者でした。子育ての時期に禁煙を勧めるのは意味がありますし、禁煙のチャンスになるかもしれません。また、子供がよくカゼをひくというような情報があれば、禁煙のモチベーションの強化ができるかもしれません。

 

 はじめての患者さんだったら、さりげなく、血圧も測ります。カゼをきっかけに若年性項血圧が発見されることも、実はよくあります。また、職場の健診でなにかいわれていないか聞いてみると、肥満と脂肪肝が指摘されているが、放置しているのかもしれません。最後に「何か他に気になっていることある?なんでもいいですよ」と質問することなども有効で、意外な相談(勃起不全とか、爪白癬とか)をされることがあります。

 

 こうしたアプローチは、病院の専門外来などにおけるそれのような、従来の診療の枠組みをあきらかに超えているのかもしれません。カゼのような単純な医学的問題でも、家族に関心を寄せる、あらゆる機会を通じて予防医療を行う、ライフサイクルにそった支援の可能性をさぐるというような、家庭医療の原則にそってアプローチすることが可能です。

 これらのような、ある種のお節介を、お節介と感じさせないようなコミュニケーション・スキルも必要です。

 

 そして、家庭医は、何かあったらまたこの医者に相談しようと思ってもらう診療を心がけるのです。そのためには、年齢、性別、健康問題の種類によらない、非選択的な診療の能力をつける必要があり、そうした力を身につけるための研修が、本来の総合診療や家庭医療の専門研修プログラムが目指すところなのです。

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