書評:「独立処方と補助処方~英国で広がる医療専門職の役割」

 土橋朗、倉田香織訳「独立処方と補助処方~英国で広がる医療専門職の役割」(薬事日報)を読ませていただきました。

 日本は高齢社会に突入し、病院から地域へ、キュアからQOLの維持・向上へ、単一急性疾患モデルからMultimorbidity(多疾患併存)へといった医療やヘルスケアのパラダイムが確実に変わりつつあるなかで、医療専門職の役割もそれに応じた変化を要請されているといっていいでしょう。

 これまでの病院、キュア、急性疾患のパラダイムなかで、医師はすべての権限と責任を担う役割があり、例えば薬剤の処方は、現在でも医師が独占的におこなう業務となっています。しかし、上述のパラダイム・シフトの中では、医師を中心としたチームから各医療専門職が真に協働(Interprofessional work:IPW)するチームが求められるようなり、様々な権限の移譲や役割のオーバーラップも現実的な課題として浮かび上がってくるだろう。

 この本には、一足先にそうしたInterprofessional workの推進の中で、医師以外の職種(薬剤師や看護師)による独立した処方を進めてきた英国の動きを詳細に記述されています。読み進めるうちに、英国ではこの問題が技術的、倫理的、法的に極めて慎重に検討され、しかも医師以外の処方による効果が科学的に研究され、それを元に継続的な質改善に取り組んでいることが理解できました。

 また、処方とは、「生物学的異常を是正するために化学物質による介入を行うこと」であるという以外に、「ケアの継続性を確保するため」「なに何かを与えなければならないと思う深層意識のため」等心理社会的な考察が十二分に記述されており、医師が読んでも処方の本質について多くの気づきがを得ることができます。
 これから日本で必要とされる専門職協働の本質は何か、そして何が検討され、実践されなければならないのかといったことに関して、処方という切り口で多くの学びをこの本から得ることができると思います。そういった視点から、薬剤師、看護師以外にも、医師を始めとしたすべての医療人に一読をすすめたいです。

 

 (なお、このエントリーは雑誌「薬局」に投稿した記事に加筆訂正したものです)

 

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