DPC・総合病院での総合診療の役割

 昨年末から今年はじめにかけて,僕は予想外の入院生活を20日間過ごすことになった。緊急入院や全麻手術,リカバリールーム,感染症合併など様々な経験をすることになった。そして,DPC病院/総合病院の内部で時間を過ごすことは,長い医師生活において,はじめてのことであった。紹介先・連携先としてしか,この25年はDPC病院とは関わっていなかったからである。そして,現代の総合病院がどのようなものなのかを考えることができた日々でもあった。

 自分自身の病状が落ち着いてくると,病院内をウロウロすることも可能になってくるわけだが,なにか楽しいことが病院内で行われているわけではないので,一階の飲料自販機(自動でコーヒー豆をミルして淹れてくれる,ちょっと高級なヤツ)の150円コーヒーを買って,外来の椅子にすわってそれをゆっくり飲むのが午前中の楽しみになっていた。そこで総合病院の外来を観察することになった。

 自分が入院していた病院には総合診療科はなく,また一般外来らしきものもあるにはあるが,臨時対応的なものを交代で各専門科医が担当してるもののようであった。

 おどろいたのは,午前中の外来はかなりFrailな高齢者や車椅子でしか移動できない患者が結構多いということであった。さすがに長年家庭医をやっているので,わかるのだが,まちがいなくそういう人たちは多疾患併存であり,また身なりやつきそいの方の様子から見て,様々な生活の問題をかかえているような,単身生活虚弱高齢者であったり,貧困の問題をかかえていそうな人たちであったり,老老世帯であろう人たちであった。

 自分自身が通院したり入院したりした経験からすると,DPC・総合病院の診療モデルはあきらかにある特定の疾患に対して,集中的・効率的に専門医療=Curativeな医療を行うように構築されている。外来も同様であり,あきらかにプライマリ・ケア機能では構造化されていない。かかりつけ機能あるいは継続性を保証しているのは,各診療科の外来クラークの人たちだったりする。看護師もかなり入れ替わりがあり継続性の担い手にはなっていないようだった。自分自身も外来の顔見知りは,担当医とクラークの人である。

 そして,通院患者は,DPC・総合病院の役割は一段落と判断されれば,いわゆる地域のかかりつけ医に逆紹介されるし,病院外来のフォローアップインターバルも特定の疾患焦点診療型なのでどんどん長くなっていく。現在自分自身のフォローアップインターバルは6ヶ月に一度となっている。自分自身は単一疾患で病院に通院しているし,病状もきわめてよく改善しているので,それでまったく問題はない。

 しかし,多疾患併存のFrailな高齢者はそうは考えていないだろう。まちがいなくDPC機能を期待して病院に通院してはいないと思う。たとえば心不全で通院していて,腰痛があれば,同じ病院の整形外科に一度はかかるが,そうした整形外科外来は退行性変化にともなう,手術適応のない慢性の腰痛は診療の対象にしていないことが多い。これは地元の病院か開業の整形外科に紹介される可能性が高くなる。

 また,多疾患併存や複雑事例(入院当初から退院困難が予想される等)の入院患者のマネージメントは当然存在しているのだが,DPC・総合病院の構造的特徴からフィットしにくいだろうことは,自分の入院中に,病棟の他の患者の様子をみて再確認したのであった。

 僕は,これらの経験からDPC・総合病院において間違いなく総合診療は必要であるという確信をもった。それは以下の診療領域が必要であり,実際に存在しているからである。

  • 多疾患併存,Multimorbidityの通院患者のコントロールセンターとして,継続性(Interpersonal & Informational Continuity)を保証した,かかりつけ医としての役割
  • 入院当初から退院困難と評価されるような複雑困難事例のコンサルテーションの役割
  • 専門科通院患者で,専門科領域ではないと判断されたあらたな症状や所見の臨床推論・治療する役割
  • 入退院を繰り返す下降期慢性疾患(慢性心不全,慢性呼吸不全,透析をしない慢性腎臓病,退行性変化由来の誤嚥,等)の入院主治医機能を持つことにより,地域包括ケアにおける垂直統合の担い手の役割

 これらは病院総合診療医の専門性そのものであり,卓越したジェネラリスト診療そのものであり,家庭医療とまったく同じパラダイムにある。そして,日本の内科学には上記に関する学的基盤は存在していない。あくまで,診断治療以外の「マネージメントの話」「接遇の話」であり,学会発表の対象にならず,研究業績としてはみとめられない領域ではないだろうか。成人の総合診療としてのAdult Medicineとして内科がそれなりに認知されている欧米とは相当異なる内科文化であることはリアルに見ておく必要があり,内科のサブディビジョンとして,こうした役割をになわせる部門を設定するのは,おそらくうまくいかないだろう。管理ライン上,内科とは違う部門にしたほうがうまく運営できるように思う。

 病院総合診療専門医を構想するのなら,たとえば大学病院においてサバイバルするために,針穴のようなカバーされていない専門領域を探すのではなく,現代の日本におけるDPC・総合病院の実際の患者層を直視することであり,そこにブルーオーシャンが広がっていることを基盤にしなければならない。そもそも日本におけるDPC・総合病院には構造的な欠陥があるからである。

 本気でこの国のヘルスケアシステムに貢献するために病院総合診療専門医を構想するのなら,過去のルサンチマンやネガティブな体験からくる自己承認欲求(僕の世代に近い人達がそういう傾向がある・・)からではなく,リアルな現状から出発すべきである。そこに未来は確かにあるのだから。

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