困難事例の元になりにくい医師の「体質」とは

 医師誘発性困難事例についてのエントリーとは逆のベクトルのエントリーです。では、困難の元にならない医師の体質を考えてみます。

 このことを考えるときに、真っ先に思い浮かぶのは、ロチェスター大学家庭医療学教授のRonald Epsteinが1999年にJAMAに発表したMindful Practitionerに関する論文です。現代において、マインドフルネスというと、ややスピチュアルな印象を持たれるかもしれないですが、この論文は違います。当時医療事故防止はどちらかというとシステム論やFool's Proofという、まあ、事故はシステムの問題で個人の問題ではないという流れがはじまったところでした。しかし、Epsteinは、事故をおこしにくい体質の医療者をどうそだてるかということで、Mindful Practitionerというコンセプトを提示したのでした。おおよそEpsteinのいうMindful Practitionerの構成要因はおよそ以下のようになります。

 

1.自分自身、患者、そしてそれらをとりまくコンテキストを積極的・能動的に観察することができる


2.周辺視野をもっている、こまかな違いや変化に気づくことができる


3.あらかじめ生じそうなトラブルを事前に察知し処理することができる


4.批判的・批評的な好奇心をもって問題にとりくむことができる


5.あるがままに世界を見る勇気をもつ


6.もともと自分がもっている枠組みやカテゴリをすぐにあてはめず、自分がもっている先入見を省察しそれを脇に置くことができる


7.ビギナーズマインドを意識的に使う


8.自分自身の能力の足りない領域があることを認める謙虚さをもち、むしろ力の足りなさを伸びしろとて称揚できること


9.知る人と知られる人をつなげることができる


10.直線的な同情ではなく、洞察に基づく思いやりをもつことができる


11.「存在感」を周囲に感じさせることができる

 

なかなかハードルが高いですが、プロフェッショナルとしてのマスターとはこういうものだと思います。生涯かけてめざしたいところです。

Boards