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Integrated Careと家庭医

 今年のプライマリ・ケア連合学会学術大会で私達のグループが実施した地域包括ケアに関するワークショップでご協力いただいた,兵庫県立大学の筒井教授のレクチャーに非常に感銘を受けました。なぜかというと,地域包括ケアの理論的基盤としてIntegrated Careというコンセプトを理解しないかぎり,地域包括ケアの理解も,そして地域包括ケアに資する家庭医や総合診療医の役割も理解できないということに気づかせていただいたからです。

 そして,最近筒井先生の著書*1を読み,さらに触発されたので,自分の考えを整理するために,久しぶりにブログ・エントリーを作成してみました。

 

 まず,多くの国々はIntegrated careを取り込んだ保健医療介護サービスの提供体制の改革を進めようとしているが,それは基本的にはケア提供をシステム化する際の基盤となる理念であり,患者のケアの改善を量る目的のために提供するサービスを調整するものと捉えられています。
 しかし,Integrated Careの意味はかならずしも統一されているわけではなく,Managed CareやDisease Managementなどの類義語が多く混乱しやすい。特に日本では統合ケアは,多職種協働の意味に捉えられている傾向があり,それは間違いではないものの,それだけでないようです。

 そこで,まずIntegrated careに関するキーワードをつかむことが有用です。それにより全体像が見えるようになります。

 

 最初に,Integrationの4つのタイプ(Nortle&Mackee)について解説してみる

Functional integration:機能的統合

システムのユニットにおける財務管理,人材,戦略的計画,情報仮,品質改良などの機能的統合のこと

Organizational integration:組織的統合

独立した医療機関同士のネットワークの形成や合併,契約,戦略的提携のこと

Professional integration:専門的統合

機関や組織内及び組織間のヘルスケア専門家による協働作業,集団実践であり,契約または戦略的提携で実施されること

Clinical integration:臨床的統合

患者のケアに際して様々なスタッフの機能,活動における協調のこと

 

 次にIntegrationのメカニズムの5つのタイプ(Rosen)について解説する
Systemic integration:システム統合
政策,ルール,規制のフレームワークにおける協調

Normative integration:規範的統合
組織,専門家集団,個人の間での価値観,文化,視点の共有

Organizational integration:組織的統合
資金のプール,業務歩合制といった公的私的な契約的,協調的な統合

Administrative integration:管理的統合
事務管理業務,予算,財政システムの提携

Clinical integration:臨床的統合 
従来からいわれている臨床場面での専門職間のケア提供における連携

 

 さらにIntegrationにはその強度といったものがある(Leutz)

 またIntegrationに必要な強度の程度は,患者ニーズの複雑性と関係する。複雑なほど必要とされる強度が強い。強度の弱い順に並べてみよう。
Fragmentation 

市場における商取引と同レベルで分断された状態~Integrationがもっとも低レベル

Linkage
よく日本の地域保健医療の分野でいわれる「連携が大事」という言説はこのレベルである。日常的な相互理解と必要に応じて他団体に照会して回答がえられるというレベル。顔のみえる関係を日常的につくるということに近い。

Coordination
個々の個人・団体は個々に調整の責任をもち,調整の場をもっているが,特定の状況については協働するレベル。定期的な困難事例検討会を実施しているような状態といえる。おそらく地域ケア会議を定期的に有効に実施しているようなレベルといえるだろう。

Full integration
これは利用者の必要なサービスをオーダーメイド的に作っているような状況のレベル。尾道モデルがこれにあたるという評価がある。

 

 そして,Integrationの幅については以下の2つがある
Vertical integration:垂直的統合
様々なサービス分野を1つの組織でおこなうというイメージである

Horizontal integration:水平的統合
様々なケアの連携を改善していくものというイメージである。

 

 非常に錯綜しているようにみえるが,従来の我々医師がもっている地域の統合ケアのイメージはおそらく信頼Trustに基づく,顔の見える関係づくりというような,ある意味ナイーヴなイメージだったかもしれない。しかし,Integrationとは,もっとシステムや組織マネージメントも含んだ非常に広いパースペクティブを持つものである。

 さて,家庭医としては,こうしたいIntegrationに関する構成概念を整理し,プライマリ・ケアにおけるIntegrated careのモデルを提示しているValentijn*2の以下の図に注目したい。Integrated primary careのアウトカムを,いわゆるTriple aimと設定し,規範的統合と機能的統合を水平軸にして水平統合を個別ケアからポピュレーションケアまで拡大し,統合のレベルをClinicalからSystemまでの4つのレイヤーの層化して垂直統合,水平統合に連結させています。非常にうまく視覚化していると思います。

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 この「カオスの虹」!!と名付けられたモデルは,地域でIntegrated primary careに携わる家庭医が自身の活動を計画したり,評価する際に非常に有用です。ここから,日本のこれからの地域包括ケアの時代における家庭医の役割について考えていきたいものです。

https://www.instagram.com/p/BGvuO8wy-Ui/

Instagram

*1:筒井孝子:地域包括ケアシステム構築のためのマネージメント戦略. 中央法規 2014

*2:Valentijn, Pim P., et al. "Understanding integrated care: a comprehensive conceptual framework based on the integrative functions of primary care."International Journal of Integrated Care 13.1 (2013): 655-679

都市型診療所家庭医の私的エッセンシャルドラッグ或いはP-ドラッグ(改訂継続中)

 家庭医の自家薬籠において,「よく処方するくすり」ではなくて,これがないと家庭医療ができないよ!!的なくすりのリストを作ろうとしていますが,いまのところあれこれ検討して,以下のようになっています。一部商品名になってます。わたしのコンテキスト(たとえばウイメンズヘルスの問題は比較的頻度が少ない)でえらんでいますので,すべての家庭医にフィットするわけではありません。

 さらに改変して種類を減らそうと考えています。50種類以下にしたい。さらにP-Drug的な検討も必要だと思います。グループ分けはかなり恣意的です。

 

喘息・COPDなど

  • フルタイド吸入
  • スピリーバ吸入
  • メプチンエア
  • 麦門冬湯

アレルギーなど

偏頭痛

  • スマトリプタン

消炎鎮痛

ステロイド

抗けいれん・鎮静

各種感染症

  • テルビナフィン
  • バラシクロビル
  • アモキシシリン(細粒含む)
  • セファレキシン
  • アジスロマイシン
  • レボフロキサシン
  • セフトリアキソン注

鉄剤

抗凝固・抗血小板・循環器

  • ワルファリン
  • ニトロール
  • サンリズム
  • インデラル
  • エナラプリル
  • アムロジピン
  • ベンチルヒドロクロロチアジド
  • フロセミド
  • ビソプロロール
  • カルベジロール
  • バイアスピリン

胃薬

便秘薬

  • センノシド
  • 麻子仁丸

甲状腺

  • チラージン

泌尿器

  • バップベリン
  • タムスロシン

各種メンタル・精神・認知症

糖尿病・脂質異常

  • メトフォルミン
  • グリメピリド
  • ジャヌビア
  • リナグリプチン
  • ランタス注ソロスター
  • ノボラピッド注
  • アトルバスタチン

痛風

  • アロプリノール

クランプ

  • 芍薬甘草湯

その他

  • ロキソニンテープ
  • エンシュア・リキッド
  • ヒルドイド軟膏
  • リンデロン軟膏
  • テビーナ軟膏
  • プロペト
  • https://www.instagram.com/p/BE-U4HWS-R0/

    Instagram

総合診療医養成のKey Issues

 最近時節柄?総合診療医の専門研修に関して,お呼ばれしてお話することが増えました。このところお話している内容をまとめてみました。

 

総合診療専門医のコアとなる6つの能力

 総合診療専門医に必要な6つのコアコンピテンシー(日本専門医機構)とは、1.人間中心の医療 2.ケア包括的統合アプローチ 3.連携重視のマネージメント 4.地域志向アプローチ 5.公益に資する職業規範 6.診療の場の多様性、とされ、これらは海外におけるプライマリ・ケアの専門医である家庭医やGP(general practitioner)教育におけるコンピテンシーセッティング[1]と相同性がある。そして、これらのコアコンピテンシーの内実の把握が教育設計上必要となるが、従来、医学における専門性(科)は、「対象とする疾患」「年齢・性別」「実施する手技」等によって定義されてきたため、こうしたジェネラリストに独特のコンピテンシー設定は、日本の一般の医師には馴染みがなく、直感的に理解しづらいかもしれない。そこで、総合診療専門医に必要な6つのコンピテンシーは6つを並列にみるのではなく、6つ目の「多様な場での診療ができること」をコアと考え、どのような場にあってものこりの5つのコンピテンシーを場のコンテキストにあわせて発揮することができるという視点からみると理解しやすいだろう。

 ここでは、総合診療専門医に期待される具体的な診療内容(外来、在宅、救急、病棟、地域を含む)を事例も含めて具体的に提示し、総合診療専門医教育の方略の方向性について議論する。

 

病棟診療教育のポイント

 病棟医療における総合診療医に期待される役割は、ほぼ以下のように要約される。これらはある意味で、現在の日本の病棟医療において問題とされている領域であるといえる。

  •  外来、在宅などとシームレスでスムーズな連携が必要なフレイルな高齢者の入院マネージメントができる
  •  他科専門医と連携して、併存疾患の多い患者の治医機能を果たすことができる
  •  心理社会倫理的複雑事例に対して、専門職連携実践(interprofessional work)によりマネージメントができる
  •  地域との連携機能を活用し退院支援ができる
  •  癌及び非癌患者の緩和ケアができる
  •  診断困難事例への対応ができる
  •  安全管理、診療の質保証、院内教育活動など、病院運営に必要なマネージメントチームの一員として役割を果たすことができる

 これらのコンピテンシーの基盤を獲得するためには、珍しい疾患の経験よりも、その施設でよくある病態を経験したほうが、熟練した他の専門職から多くを学ぶことができることもあって適している。重症疾患・希少疾患を診ることができるなら、軽症疾患・日常病を診ることはできるはずであるという、従来の内科トレーニングの発想は当てはまらない。たとえば、フレイルな高齢者で誤嚥性肺炎や慢性心不全で入退院を繰り返しているような患者をマネージメントすることが、総合診療医に求められる質の高い在宅診療のためのよい研修になることを強調したい。

  手技に関してはその施設の文化や必要性に応じて計画的に習得すればよい。たとえば、地域のリソースの観点から、上部消化管検査を総合診療医が実施することが必要であるとなれば、上部消化管内視鏡検査のトレーニングをカリキュラムに入れることは正当である。総合診療医に必須の侵襲的手技は設定すべきでなく、あくまでコンテキストや本人の希望に応じて目標を設定したい。 

 

病棟診療教育の事例

  病棟での総合診療医の研修や医療活動をよくイメージできるように、事例をいくつかあげて解説する。

 事例1:87歳男性、定期訪問診療を受けていたが,高熱が出現,ADL低下し紹介入院 した。身体診察からは熱源不明 、血液培養実施し,画像診断にて急性胆道感染症と診断 された。入院によるせんもう予防のプロトコール(HELP)も他職種で実施した。

 在宅医療の現場では様々な制約から、病歴、身体診察のみから症状の原因を推定せざるを得ないことがあり、また発熱による生活機能の急速な低下による入院依頼となることも多い。この場合、何科に入院するのが適切かを紹介元が判断できない。こうした診療コンテキストを理解して、入院を受け、診断と治療を行うことが総合診療医には求められるだろう。   

 そして、胆道感染症改善後速やかに在宅医療に移行することができるように、せん妄予防やリハビリテーションの導入などにチームで意識的に取り組むことが必要である。こうした要素はすべて総合診療医の教育コンテンツである。

 事例2:63歳女性、乳がん,多発性骨転移,高カルシウム血症による意識障害で入院 。スタッフ&家族と今後の方向性についてカンファレンスをくりかえし,自宅での最期を希望されており,在宅医療担当グループに移行するためのミーティングを行うことになった。

 日本においては緩和ケアが必要とされる入院患者は一般病棟にいる場合が多い。一般病棟入院中のがん患者の緩和ケアや在宅緩和ケアの導入などは、総合診療に求められている重要な任務である。がん及び非がん患者の緩和ケアは総合診療医の教育コンテンツとして重視される。また、地域の在宅チームとの様々な架け橋になることも重要なで、ミーティングの運営技術もふくめて様々なマネージメントスキルにかんする学びも必要であろう。

 事例3:70歳男性 、くりかえす失神発作の原因精査目的で紹介入院。入院後洞機能不全症候群の可能性が高く、循環器内科にコンサルテーション,PPM挿入となった 。基礎疾患に糖尿病がありインスリン導入を実施 。

 診断困難事例のマネージメントを様々な専門家にコンサルテーションしながら行うことも総合診療医の病棟における役割として求められている。総合診療医は必ずしも「診断専門医」である必要はない。様々な情報を統合し、主治医として患者とよく話し合い、ゴールを設定してくような姿勢が期待されている。

 

プライマリ・ケア外来診療教育

 プライマリ・ケアにおける非選択的外来ができることが目標となるが、これは年齢、性別、臓器、健康問題に種類によらず、初期診療や継続診療ができることを意味する。そして、総合診療専門研修においてもっとも重視すべき領域である。

  日本では、特に内科領域においては病棟医療がトレーニングの中心であり、「病棟診療ができれば外来診療はできるはずだ」という誤った医学教育観が長く保持されている。しかし、海外の家庭医療やGPの領域における様々な研究結果によれば、外来診療は、独自の教育コンテンツをもち、それとして教育され、評価されなければならないとされる。残念ながら、日本においてはプライマリ・ケア外来診療領域の研究も教育もほとんどなされてこなかった。また、本来実施すべき価値の高い医療(High value care)であるヘルスメインテナンスや、外来医療の重要なタスクのひとつである受療行動の指導などが行われていないことも多い。また、おそらく今後の日本の外来における総合診療教育を有効なものにするためには、外来医療自体のシステムや制度にも工夫が必要でである。総じて、教育の場、方略、評価にイノベーションが必要である。

 教育コンテンツとしてとくに重要なのは、慢性疾患ケア、老年医学(geriatrics)、こどもの成長発達支援(予防接種や健診など)、多疾患併存(multimorbidity)のマネージメント、外来患者集団をpopulation at riskとして捉え診療の質改善に取り組むこと、などがあげられる。

 

外来診療指導の実際

 まず、かぜ症状を主訴に外来受診した患者に関する教育内容について考えてみよう。17歳の女子高校生が3日前より生じた咽頭痛で来院。咽頭所見より溶連菌感染を考え、迅速検査で陽性反応あり。抗菌薬を10日処方した。

 この事例においては、急性咽頭感染症の鑑別診断と治療が指導内容になるだろうが、総合診療の外来では、めったにあわない思春期の地域住民に医師が出会った場合、何をタスクとすべきかという視点が重要である。たとえば、「タバコは吸ってないよね」「何か他にききたことある?なんでもいいよ」といった声掛けが、意外な健康問題を浮かび上がらせることもあるし、そうでなくてもいつか健康問題を相談したいときのリソースとしてその医師が位置付けられる可能性が高い。カゼは普段接することのない地域住民との出会いのきっかけをつくるものとして位置付けると、なんでもない外来診療の風景が変わってみえるだろう。

 次に、転居してきたばかりの1才の男児が、1週間つづく咳と鼻水で来院した事例を考えてみる。この場合、小児のかぜ症状への対応が教育内容であり、こうした症状から重症になりやすい疾患を念頭においた診断と治療や、母親への説明の仕方が大切であることはいうまでもない。

  そして、連れてきた母親に対して、母子手帳を見ながら妊娠中のトラブル(入院、中毒症、高血圧、タンパク尿などの指摘)がなかったかどうかきいてみたい。実は妊娠中に高血圧を指摘されていたが、実はその後フォローされていなかったかもしれない。また、転居して慣れない育児環境の中で何か気になること、相談したいことはないかどうか気軽にきいてみたい。場合によっては、実家の近くに越してきたが、自分の母親の物忘れが気になっているという話が出てくるかもしれない。こうした、小児の健康問題だけでなく、家族もふくめた相談相手になるためのタスクが総合診療医にはある。

  次に、高齢者の外来診療を取り上げてみる。89才の女性が夜間尿失禁を主訴に来院した事例を考えてみる。通常の医学生物学的診断治療のみで解決可能な健康問題の割合は、虚弱高齢者の場合は約半分である。日本の老年医学の教育は、長く高齢者に特有な疾患の教育にとどまっており、本来の老年医学geriatricsの教育は不充分であったといえるだろう。

 高齢者は漠然とした症状が多いので、まず、この患者はどのような生活をしてるのか、その全体像を、ADL、IADL、認知機能、社会的サポート状況を聴取しないと、問題の真の姿はみえてこない。結局この患者はもともと糖尿病、心不全で他院に通院していた。利尿剤が最近増量され、夜間尿が増えた。もともと膝関節症で動きがおそく、白内障の悪化でくらい廊下をトイレまで歩くのが困難だった。これらの要因が重なって、夜の排尿が間に合わなくなったのである。これらに病態生理学的な因果関係はなく、問題が累積した結果である。虚弱高齢者のプライマリ・ケア外来診療においては、主訴を一旦カッコに入れて、全体を評価することが必要な場合が多い。

 

プライマリ・ケア外来診療の構造

 前述したように日本では、外来診療は病棟医療における診断治療プロセスを外来に適用することであるという誤った考えが従来から根強くある。しかし外来診療の現場に実際出てみれば、そう単純ではないことは、すぐわかるのだが、診断治療以外の部分を、接遇やコミュニケーションの問題とする傾向があり、まともに学ぶ機会がほとんどなかった。そのため、フィードバックを受けたことのない、自己流の外来診療様式が蔓延することになった。しかし、世界的にみると、家庭医療やプライマリ・ケアの世界では、プライマリ・ケア外来診療は、病棟医療とはちがう構造化が必要であり、それとして教育されるものであると捉えるのがスタンダードである。

 もっともシンプルな外来診療モデルはStottら[2]によるプライマリ・ケア外来診療の「4つのタスク」モデルである。これは外来診療のタスクを「急性の問題への対応」「慢性の問題への対応」「予防医療的介入」「適切な受療行動の指導」の4つとするものである。たとえば、外来診療診療後にこの4つの領域に添って指導医と症例を振り返ることによって、このモデルにもとづく診療所が可能になる。さらにもっと洗練された外来診療構造モデル[3][4]もある。

 プライマリ・ケア外来診療の教育は、その構造自体の理論的な学習と、ビデオレビューなどの新しい教育技法の導入の2本立てで取り組むことが必要である。

 

救急医療教育のポイント

 救急医療については一般外来、あるいはプライマリ・ケア外来と違う臨床推論を学ぶことになる。たとえば、腹痛の診療においては、それが同程度の症状であっても、プライマリ・ケアと救急医療では事前確立・検査前確率が異なるため、鑑別診断の優先順位を変化させる必要がある。しかし、これまで医師一般のトレーニングの場が2次ー3次医療機関に設定されていたため、そこにおける臨床推論をプライマリ・ケアの場にそのまま適用しがちであったといえるだろう。総合診療医はそうした場における推論プロセスの違いを使い分けることができるように教育されなければならない。

 総合診療専門研修中だけでなく、生涯教育の観点からも、またプライマリ・ケア外来診療の安全性や質の担保のためにも、救急医療は専門研修修了以降も継続して関わりたい。診療所が主たる仕事の場面であっても、病院の救急医療に一定関わり続けるというスタイルが、あたらしい総合診療医には必要である。

 救急現場でのトレーニングで目標になるのは、重症疾患の治療経験というよりは、一般的な主訴であっても、危険な症状や所見(red flags)を見逃さない能力の獲得であろう。いわゆる北米型ERでの研修が最も教育効果があるといわれる所以である。

 

在宅医療教育のポイント

 今後の超高齢社会と地域包括ケアの時代において在宅医療は重要な医療の場となるが、現代にもとめられる在宅医療は、比較的介護度が高いが医療需要度は低いタイプの患者のケアのことではない。DPCの時代になり、入院患者がトータルにすべての問題をマネージメントされた状態で退院することはなくなり、医療需要度の高い在宅患者が増えてきている。特に急性期対応や在宅緩和ケアを実践できる知識と技術が求められるだろう。

 また、かつては社会的入院という名目で、入院させることで事態を前にすすめることができた地域の複雑困難事例を、入院させずに地域でマネージメントする頻度が急増している。

 おちついた在宅患者の訪問診療、本人の状態が変化ないことを確かめ、介護者と談笑し、定期薬を処方して笑顔で帰っていくようなノスタルジックな往診風景はだんだん少なくなるだろう。逆に、発熱で臨時往診し、身体診察と限られた検査を行い、血液培養をオーダーし、鑑別診断は何か、緊急入院の適応はあるのか、抗菌薬の選択はどうするか、といった行動が必要になる。

 また、在宅医療においては、地域ベースの様々な職種でチームを形成する機会が多いが、ふだんから顔のみえる関係を構築すること、また専門職連携実践の促進因子と阻害因子を理解し、適切なリーダーシップの発揮あるいは移譲を行うことが大切である。

 総合診療研修における在宅医療の経験においては以下に列挙するようなケースをバランスよく受け持ち、多職種参加のカンファレンスを実践できることが目標になる。

  • 緩和ケアを必要とする患者(がん、非がん)
  • 在宅ケアを新規に導入する患者
  • 心理社会的倫理的に問題の多い複雑事例
  • 介護度は高いが医療需要度が低い安定した患者

 

地域ケア教育のポイント

 地域ケアは従来最も医師教育には欠けていた領域であると言える。この場合の「地域」は自治体の区切りではなく、何らかのリスクを共有する人口集団ととらえたほうが良い。市町村単位の人口集団全体を対象にした活動はむしろ公衆衛生や医療政策のテリトリーであろう。

 例えば、自分の病院や施設の外来に通院している90才以上の患者集団に関して、なんらかのヘルスプロモーション活動を行い、あるいは地域にすんでいる子育て中の外国人に対して育児や小児保健にかんする定期的な情報交換の集まりを作るプロジェクトに取り組むような活動が、総合診療医養成プログラムにおける地域ケア研修のイメージである。単発的に住民をあつめて健康講話を開催するようなことも悪くはないが、講話の設計をたとえば教授設計法であるガニエの9教授事象[5]などを参考にして行い、実際に講話の参加者に事後アンケートを評価として得られるようなカリキュラムでないと、「やってみた」以上の教育効果は得られないだろう。

 

おわりに

 総合診療医養成を行うためのキーポイントは、様々なコンテキストの現場でのトレーニング環境をつくるところにある。それは、これまで医師養成の中心であった病棟医療の現場での教育だけでは、総合診療医に期待される社会的役割を果たすコンピテンシーを身に付けることは困難であり、プライマリ・ケア外来診療、軽症~中等症救急診療、在宅ケア、地域ケア等における教育をバランスよく効果的に実施できるための教育イノベーションが必要になるということでもある。

 

参考文献

[1]: 公益社団法人地域医療振興協会診療所委員会(訳). 英国に学ぶ家庭医への道. メディカルサイエンス社, 2013

[2]: Stott H, et al. The exceptional potential in each primary care consultation. Journal of the Royal College of General Practitioners; 29: 201-5, 1979

[3]: Stewart M. Patient-centered medicine: transforming the clinical method. 3rd ed, Radcliffe Publishing 2014

[4]: Neighbour R, 草場鉄周(監訳), The Inner Consultation 内なる診療. 第1版, カイ書林, 2014

[5]: 市川 尚 (著), 根本 淳子 (著), 鈴木 克明 (監修). インストラクショナルデザインの道具箱101. 北大路書房 2016

 

https://www.instagram.com/p/BEIZ0PIy-ax/

ハナミズキ

日本におけるEcology of Medical Care:10年で変化したのか?

 2003年に福井ら*1によるEcology of Medical Careの論文が出てから10年経過しました。そして2014年にTakahashiらが同様の研究を発表している*2。これは学会抄録集のみがPublsihされているので,詳細なデータを確認できませんが,非常に興味深いです。

 結論から言うとこの10年間で,日本人の受療行動パターンはあまりかわっていないということでした。

 欠損値多いですが,一応自分なりに以下の表にまとめてみました。ちなみに,

OTC:Over the counter drug(売薬を購入)

CAM:Complementary and alternative medicine(相補代替医療

です。

f:id:fujinumayasuki:20160315153816p:plain この表から読み取れることを自分なりにまとめてみると,

1.受療行動として最初に選択するところとして,診療所と病院の外来が大多数だということ,しかも病院志向というふうにいわれているわりに診療所はよく利用されている状況はこの10年で変わらない。

2.OTCは非常によく利用されており,街の薬局がプライマリ・ケアの重要な担い手である可能性がある。

3.相補代替医療も病院外来以上によく利用されている。

4.おそらく大学病院の入院1人あたりのBackgroundPopulationは3000人以上だろうということ。

 

 医者として考えると,プライマリ・ケアの外来診療として病院は相当の役割を果たしているが,しかしその役割に応じた体制や技術構造を準備しているのかということが問題になります。地域の病院に病院内診療所といえるような部門,あるいは家庭医診療科のような部門をつくることは地域ニーズにもあっているはずだろうと思うのです。

 

f:id:fujinumayasuki:20151129111957j:plain

*1:Fukui T,  et al. The ecology of medical care in Japan. JMAJ 48(5); (2005): 163-167

*2:Takahasi O, et al. The ecology of medical care in Japan revisited. Value in Health 17(7); 2014: A434

プライマリ・ケア担当総合診療医の臨床推論(承前)

 通常の診療は、それが初期診療であれば、症状/主訴から病歴聴取、身体診察、各種検査を経て医学的診断にいたり治療が可能になると考えられているが、それだけで実際の初期診療が成立しているわけではない。
 Fukuiら*1によると一般日本人1000人が一ヶ月間になんらかの不調を自覚するのが862人、そのうち医師に受診するのが307人(診療所に232人、病院外来に88人)とされた(下図参照)。

f:id:fujinumayasuki:20160207203906p:plain

 つまり、地域で不調を自覚する人たちのうち約65%が医師を「受診しない」。受診しない場合は、セルフケアやOTCの利用などが考えられるが、医師を受診する場合は、なんらかの動機あるいは受診ドライブがかかって医師を訪れる。たとえば、頭痛が主症状で来院した患者が、頭痛をなんとかしてほしいということではなく、この頭痛がくも膜下出血と関係があるのではないかという不安で来院するようなことはプライマリ・ケアでよくあることである。つまり、頭痛が主訴であるが、「くも膜下出血が心配」は受診理由である。この主訴と受診理由がキメラ上になっている患者への対応が初期診療の最大の特徴のひとつであり、主訴に対する診断と、受診理由の「診断」が必要である。

 この受診理由の診断は患者にとっての病いの意味(Meaning of illness)を明らかにするプロセスといえるが、そのための必要なスキルは患者中心の医療の方法に集約されているといってよい。このMeaning of illnessはこれまでおそらく医学のアートの部分といわれていたところだが、これもやはり認識の枠組みがある。

 さて、とりあえず、総合診療医に求められるのは、非選択的な健康問題の相談ができることである。とりあえずどんな問題にも対応し、相談にのれるということであるが、あくまで「相談」であって、大部分の健康問題の「診断・治療ができる」と記述していないことに注意したい。相談によりおよそ90%の問題は総合診療医で対処可能だが、必要な場合は専門家への紹介をするが、この紹介もある種の問題解決である。
 そのためには、年齢、性別、臓器にかかわらずプライマリ・ケアにおける主要症状に対するアプローチ法を熟知することが必要で、経験にたよるだけでなく、症状へのアプローチに関する系統的で整理された知識が必要である。たとえば「プライマリ・ケアにおける頭痛へのアプローチについて20分で初期研修医にレクチャーできる」といった具体的課題を設定するのも有用だろう。総合診療専門研修の目標に挙げられている以下の症候については、外来や救急の現場での経験だけですべてに習熟するのは困難であるが、知識を常にブラッシュアップしておきたい。

 ショック、急性中毒、意識障害、全身倦怠感、心肺停止、呼吸困難、身体機能の低下、不眠、食欲不振、体重減少・るいそう、体重増加・肥満、浮腫、リンパ節腫脹、発疹、黄疸、発熱、認知機能の障害、頭痛、めまい、失神、言語障害、けいれん発作、視力障害・視野狭窄、目の充血、聴力障害・耳痛、鼻漏・鼻閉、鼻出血、嗄声

 総合診療医の臨床推論プロセスの力量設定は、繰り返しになるが、プライマリ・ケア外来診療、あるいは軽症救急で実施できる能力を念頭においている。
 特に重要なことは、事前確率が、地域あるいは施設のコンテキストによってことなることを前提に診療ができることである。そして場所によって臨床推論のプロセスを切り替えることができることが、総合診療医に求められる「多様な場での診療」を妥当なものにするからである。
 例えば内科学における臨床推論パターンは、患者の問題は、A、B、C、D・・の診断名の中のどれか?と問う構造をもっているが、総合診療特にプライマリ・ケアにおいて必要な推論パターンは、AかNot Aか?ということが求められる。Aとは、生命に危険が及ぶ可能性があるもの、今すぐ治療を開始すれば経過や予後に影響をあたえることができるもの、専門医に紹介することが有益とかんがえられるもの、などがあげられるだろう。ちなみにMcWhinney*2は上述の2つの推論パターンについてホワイトヘッドやポパーを援用しつつ論理的には2つは等価であると論じており、後者が前者に比して不徹底であるというわけではないとしている。
 特に見逃してはいけないものである症状・症候・所見はred flagsと呼ばれるが、一般的な健康問題におけるred flagsを捉えることができること、必要な除外診断能力が総合診療医にもっとも求められる臨床推論であろう。正しい診断にいたることがいつも可能というわけではないのが、プライマリ・ケア現場の所与の属性である。このあたりをどうしても不徹底と感じてしまう場合、プライマリ・ケアの現場は苦痛になってしまうだろう。
 また、プライマリ・ケアにおける臨床推論においては、継続ケアの結果えられる患者の様々な病歴に関する知識、家族の状況、地域の疾患頻度の特徴などが影響をあたえることはいうまでもない。しかし、こうした情報は臨床判断のうえで有用な場合もあるが、バイアスの元にもなることには注意したい。
 そして、一般的な検査や画像診断の感度特異度を考慮した検査選択と解釈もプライマリ・ケアにおいては重要になる。大病院や高度救急センターにおける検査のオーダーのしかたや解釈をプライマリ・ケアにそのまま持ち込むのは概して不適切である。なぜなら、検査前確率が全く違うためであり、同じ腹痛でも、プライマリ・ケアと大病院では鑑別診断のプライオリティも異なり、検査結果の解釈も変化する。診療の場によって、適切な思考プロセスにチェンジできることが総合診療医の特徴である。
 治療に関しては、Common disese群のガイドラインを知ることだけでなく、ガイドラインの批判的吟味ができることも総合診療医には求められるが、これは患者の権利擁護にも繋がるだろう。むろん、Common diseaseの経験豊富なパール群に触れることも大切である。
 総じて、総合診療医に臨床推論からケアや治療に至るプロセスは、Sackettら*3によるEBMの定義、

「Evidence based medicineは、一人ひとりの患者のケアについて意思決定するとき、最新で最良の根拠を、良心的に、明示的に、そして賢明に使うことである。Evidence based medicineの実践は、個人の臨床的専門技能と系統的研究から得られる最良の入手可能な外部の臨床的根拠とを統合することを意味する」

 とほぼ同等であると言ってもよいだろう。総合診療教育においては、日常的なEBMに関する研鑽をうながす教育が求められるだろう。

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*1:Fukui T, et al. The ecology of medical care in Japan. JMAJ 2005;48(4):163-167.

*2:McWhinney, I. R. (1997). A textbook of family medicine. Oxford University Press.

*3:Sackett DL., et al. "Evidence based medicine: what it is and what it isn't." BMJ: British Medical Journal 1996; 312: 71.

アカデミックな総合診療に参入する家庭医に向けて

 1966年、Ian McWhinneyが37歳のとき、医学においてある分野が専門性があるとされる条件について記述しています。それは、


(1) A unique field of action.(特異的な医療活動の場がある)
(2) A defined body of knowledge.(よく定義された知の体系がある)
(3) An active area of research.(活発に行われる研究の領域がある)
(4) A training which is intellectually rigorous.(知的にしっかりとした教育が存在する)

の4つ*1です。


 日本の総合診療はこの4つとも備えることができます。ただ(2)(3)に関しては家庭医療学をビルトインする必要がある。(1)はとりあえずプライマリ・ケア現場、(4)は真正のレジデンシー構築でいいでしょう。問題は(2)(3)です。

家庭医療の知の体系については、すでに家庭医療学の諸研究に基づくGeneralist Wheel*2により可視化されています。このGeneralist wheelの各象限と境界に関する知識や研究全体の統合がアカデミックな環境で総合診療を教育研究する上では必須。研究方法論としての量的研究、質的研究、混合研究法も知っておく必要がある。アカデミックな総合診療は知的に相当タフな領域ですが、チャレンジしがいがありますね。

 

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大学にこの春転出する総合系の若手の先生方も多いと思いますが、上記4つを常に頭に入れておいてほしいです。

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*1:Mcwhinney IR. General practice as an academic discipline: reflections after a visit to the United States. The Lancet 1966; 287(7434): 419-423

*2:Green LA. The research domain of family medicine. The Annals of Family Medicine 2004; 2(suppl 2): S23-S29.

ケアの継続性と総合診療医

 

 総合診療専門医のコア・コンピテンシーとしての包括統合アプローチは非常に多くの臨床能力を包含する領域である。総括的な内容は以下のとおりである。


 「プライマリ・ケアの現場では、疾患のごく初期の未分化で多様な訴えに対する適切な臨床推論に基づく診断・治療から、複数の慢性疾患の管理や複雑な健康問題に対する対処、更には健康増進や予防医療まで、多様な健康問題に対する包括的なアプローチが求められる。そうした包括的なアプローチは断片的に提供されるのではなく、地域に対する医療機関としての継続性、更には診療の継続性に基づく医師・患者の信頼関係を通じて、一貫性をもった統合的な形で提供される」(日本専門医機構:総合診療専門研修カリキュラムより)

 今回注目したのはこのコア・コンピテンシーの一般目標4及びそのサブ項目としての4つの個別目標である。

一般目標4:医師・患者関係の継続性、地域の医療機関としての地域住民や他の医療機 関との継続性、診療情報の継続性などを踏まえた医療・ケアを提供する能力を身につける。
個別目標1:患者の抱える健康問題について継続的に関わり、そこで得られた患者のコンテクストや 医師・患者間の信頼関係を診療に活かすことができる
個別目標2:患者・家族の抱える解決困難な苦悩に対しても、身近な存在として傾聴し支え続けるこ とができる
個別目標3:地域における自施設の役割を十分に理解し、長期的な地域との関係性を踏まえた医療・ ケアを提供することができる
個別目標4:診療情報の継続性を保ち、自己省察学術的利用に耐えうるように、過不足なく適切な 診療記録を記載することができる

 

 この一般目標及び4つの個別目標群は、ケアの継続性に関してその多面性を理解し、継続ケアのもつパワーを効果的に使い、継続ケアを維持するためのスキルを獲得することが総合診療医に求められることに由来したものであるといえるが、この辺りは家庭医療学の領域で幅広く研究されてきたものだが、内科系医師にはあまりなじみのないものかもしれないので、すこし解説してみたい。

 

 64歳男性、高血圧症でA総合診療医が12年間フォローアップしているが、同時に定期的な大腸がん検診を勧めているといった事例を考えてみよう。

 「継続的にみる」ということでまず思い浮かぶのがこうした特定の(慢性)疾患を同じ医師が治療し続けることであろう。確かに一般的な慢性疾患や健康危険因子の長期フォローアップは総合診療医の重要な役割であるが、さらに専門医への紹介のタイミングの理解,あらたに生じる健康問題への対応,ライフステージ毎に必要な予防医学的介入などは総合診療医による継続ケアの特徴といえるだろう。

 同じ医療者に長くケアされる継続性は縦断的継続性 (longitudinal continuity)と呼ばれる。これはいいかえれば,同じ医者にかかり続けることであり、それが継続性だと一般には思われているが、ケアの継続性はもっと多様な側面を持っている。
 

 次に、71歳男性が5年前に総合病院消化器外科にて早期胃がんにより胃切除術を受け、手術を実施した外科医B医師の外来に3ヶ月に1度通院していたが、特に問題はないため今回で定期診療は終了となった、という事例を考えてみる。

 この事例の継続性の基盤はあくまで「疾患」であり、治療の終了と同時に患者医師関係は終了する。こうした特定の健康問題が一定解決したのち、フォローアップ目的で総合診療医に患者が紹介される場合も近年増加している。また,転居などにともない、スムーズに医療内容が引き継がれる必要性が増してきており、正確な情報の整理や伝達が重要である。こうした情報の観点からみたケアの継続性を情報継続性(informational continuity)と呼ぶ場合がある。急な紹介や、知らないあいだに救急受診した先からの照会などに、自分以外の医師が診療録をみて適切な情報提供ができるようにカルテ記載ができることが目標になるだろう。  


 対比的に、24歳女性発熱,咽頭痛で受診,急性咽頭炎と診断されたが、その2年後、膀胱炎で再度同医師を受診した、というような事例を考えてみる。かかりつけ医としても期待される総合診療医の場合、疾患に由来した問題が解決すれば、患者医師関係が終了するかというと、そうではない。診療を通じて「またなにかあったらこの医師に相談しよう…」という思いがその患者に生まれることを目指しているからである。その患者の健康問題の解決のためのリソースとして,その医師が「かかりつけ医」として存在するようになることが,総合診療医がその地域で役に立つ医師になれる条件の一つである。
 では、地域住民がその医師を自分の「かかりつけ医」と認める条件とはなんだろうか。篠塚ら[1]によると以下の構成要因を満たす場合にその医師はかかりつけ医となるとされた。

  • よくコミュニケーションがとれ、話をよくきいてくれたり、わかりやすく説明してくれる
  •  受診のための環境がよく、居住地から近く,その医師の外来単位が多い
  • 自分の仕事や生活の様子、性格、価値観などが知られており、職種にかかわらず長く働いているスタッフがいること
  • 自分と同じ目線にたってくれて、自分の考えも言いやすく、何でも相談できて、意思決定に参加できる
  • しっかりとした知識や技術をもっていて、幅広い健康問題に対処できる。わからない場合、手におえない場合はすみやかに、適切な施設へ紹介してくれる

 ここに列挙した5つの要素は現代的な意味での総合診療医のコア属性となるものでもある。上述の診療ができれば、たった一回の診療でも、しっかりした医師患者関係が築かれることがあり、これは対人関係上の継続性(interpersonal continuity)と呼ばれる.
 

 次に58歳女性で、5年前に糖尿病といわれるも放置していたが、再度健診にてHbA1c8.8%を指摘されA総合診療医を受診。その後同医師に2週間に一度のペースで4回診察をうけ、糖尿病への意識が高まり食事療法、運動療法に取り組むようになったという事例を考えてみる。
 おなじ医師が継続的にみることで患者に何らかの変化が生じることはしばしば経験するところである。この事例では先述したinterpersonal continuityが構築され、強化された患者-医師関係のなかで糖尿病に対する行動が変容したと思われる。継続性のもつ「癒し」の効果や変化をもたらす力を示している。Feeman[2]らはこうしたケアの継続性のもつ力を有効に活用することが総合診療医に特徴的なスキルであるとしている。
 

[1]: 篠塚雅也, 大野毎子, 藤沼康樹, 松村真司. かかりつけ医に求められる条件についての質的研究. 病体生理. 2002, vol. 92, p. 19-23.

[2]: Freeman, G. K.; Olesen, F.; Hjortdahl, P. Continuity of care:   an essential element of modern general practice? Family Practice. 2003, vol. 20, p. 623–627.

 

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