2020年の5月頃考えていたこと

はじめに 

 2020年の4月から5月あたりに「総合診療」2021年1月号のために書いたエッセイは今読み返すとあらためてあの頃の気分を思い出します。現在まで、パンデミック下で圧倒的に優勢であった自然科学の知、あるいは理系の知だけでなく、いまこそ人文知が要請されているのではないかという感覚があるのですが、その感覚の萌芽が当時の自分にはあったのだと思います。

 今このエッセイを再掲するのは、それなりに意味がありそうな気がするので、ちょっと加筆訂正してブログエントリーにしてみます。

 

パンデミックと家庭医療、理系の知と文系の知

 文芸批評家である福島亮大氏のエッセイ(内なる敵と負の祝祭――震災とコロナウイルスのあいだで https://slowinternet.jp/article/20200330/)によれば、SARS-COV2(新型コロナウイルス)の特異な性質の一つは、それによる感染の症状が、無症状~感冒様症状~急性肺炎~多臓器不全までスペクトラムがあるものの、総じて嗅覚低下症状もふくめて、呼吸器系の症状が中心であり、麻疹、エボラ出血熱、ペストなどに見られるような、急速に死にいたるような劇的な経過や派手な皮疹や出血といった症状に乏しい、自己表現の「凡庸」さにあるという。さらに、無症状者が多いゆえに「どこに=誰に感染しているのか」がわからないようになっており、いわば自身の身を静かに隠す性質をもっていて、これを福島氏は「自己隠匿性」と呼んでいる。この凡庸かつ自己隠匿的である特徴が、東日本大震災後に懸念され続けてきた放射性物質の特徴との相同性があり、災害と復興の観点から今回のパンデミックに関する考察を加えているが、深いところで励ましを感じるエッセイである。
 また、パンデミックの影響もっとも甚大な被害を与えた国であるイタリアの若い小説家が緊急出版した、エッセイ集(パオロ・ジョルダーノ「コロナの時代の僕ら」早川書房)には、物理学・数学を学んだ文学者ならではの、パンデミックに関する科学コミュニケーション力に優れた解説と、気候変動や環境問題との関連、個々人の生活と倫理をめぐる問題が、密度高く記述されている。そして、今この時期に、今後わすれてはいけないと思ったことを、個々人が書き留めておこうというメッセージが説得力に満ちている。
 この二人のエッセイを読んで、理系=自然科学の知だけでなく、人文領域の知に注目することも、改めて重要だ。それは現場にいるものほど必要になっていると思う。
飛沫・接触感染を通じて感染するということで、話すこと、きくこと、喜怒哀楽の表出、身体的に触れ合うことなどの人間のコミュニケーションの基盤にのって、SARS-COV2は伝搬する。たとえば家庭医である自分自身が重視してきた、コミュニケーション、身体診察、患者宅を訪問すること、疾患ではなく、患者の主体にアプローチすること、などの基本的価値観をペンディングして、SARS-COV2なのかそれ以外なのかというような単純な思考パターンにならざるを得ない状況が生まれている。こうした状況下で、やはり家庭医としての自分を、自身のヘルスリソースとしてこれまで利用してくれていた地域の人たちが、たとえば発熱外来を受診する際は、過去のカルテに記載された家族構成や生活ぶりがとても役にたつし、見知った人に対する相談にのることは、こちらもリラックスできるところがある。普段の自分の診療と今現在の診療がやむを得ず違っていることも理解してもらえることが多い。身体的距離は保っても、心理社会的な繋がりは保ちたい。
 この巻頭言を書いている2020年4月~5月の日本は、社会的な緊張感がもっとも高まっている時期となっている。読者の皆さんの毎日の安全を祈りつつ、連帯の意を伝えたい。

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総合診療/家庭医療に関心のある医師からの質問にカジュアルに答えてみたセッションの様子

 今年4月に学会(JPCA)地方会にリモート参加しました。「あらかじめ総合診療/家庭医療の専攻医や指導医からの質問を集ますので、その質問に答えるようなレクチャーをお願いします」というリクエストがあり、自分的にもはじめてトライするタイプのプレゼンだったので、かなり悩みましたが、やってみました。

 その時の語りをそのまま文字化するのは大変なので、ブログエントリーとしては作らない予定でしたが、「話のアウトラインだけ」でよいので、公開してほしいというご要望もあり、読み物としては成立していないのですが、アウトラインのみエントリーにしてみることにしました。

 読みにくいと思いますが、実際のプレゼンでは、たくさんの質問に対して一言コメントみたいな感じで返す感じになりましたので、実は、このアウトラインがすべての発言内容であったともいえます。

 質問、そしてこの答えという感じで列挙していきます。よろしくおねがいします。


【日本において今後の総合診療医、家庭医の立場はどうなって行くと思うか?】
 日本において、その必要性はすでに医師以外のヘルスケアプロフェッショナルには広く認知されています。ただし、世界史的には、医師集団自体がジェネラリストの必要性を認識し生み出し確立させた国はなく、ほぼ、国策=ヘルスケアシステムの再構築、あるいは市民団体などの運動と連動して生じているという事実は認識しておいたほうがよいです。

 

【Mtimorbiditydの患者のどのような点に注目したり、注意して診療しているか?】
 Basic Multimorbidity、Complex Multimorbidity、Multiple Functional limitationsをわけてとりくんでいます。健康問題を疾患の累積ではなく「構造」としてとらえることが大事です。健康問題を「構造」としてとらえることはGeneralism=総合性のキーの一つです。

 

【コロナ禍で地域ヘルスプロモーションが限定されますが、どのような取り組みをされていますか?】

 現実的には、ソーシャルディスタンスの関係もあって、従来型のものはもはや不可能になってきてて、まったくあたらしいコンセプトで創造的にとりくむしかないと思い始めています。安宅和人さんのいう「開疎化」や、「換気概念のアップデート」「SocialとPhysicalの距離の質的差異」「テクノロジーを使い倒す」「 紙メディアの再評価」などのキーワードで考えたり、ディスカッションしているのが現状です。

 

【家庭医としてのやりがいはどこに?】
 個人的には、様々な人、様々な問題にであえること、健康問題のヴァリエーションと振り幅の広さがあり、地域、社会、文化、グローバルIssuesへの接続可能性が魅力です。

 

【総合診療・家庭医療の専門性とは?】
 卓越性はありますが、排他的な専門性はありません。むしろ「段位」があります。

 

【家庭医やっててよかったなぁ」と思った瞬間は?】
 往診途中で、こどもから挨拶されたとき。

 

【若いうちに身につけておきたいこと、勉強しておきたいことを教えて下さい】

 謙虚であるということが一番重要で、特にこれを勉強しておきなさい、ということはありません。

 

【大切にしている家庭医・総合診療医の素質・アイデンティは?】
 病いや障がい、苦悩や苦痛の意味に興味をもてることでしょうか。その人にとってベストは何かを考えられることですね。

 

【読んで置くべき教科書・論文は?】

 特に指導医はAnnals of Family MedicineやJournal of General Internal Medicineなどのジェネラリスト系専門誌に親しみましょう。目次をみて、何に関する話題なのかを想像できるようになると、ジェネラリスト脳が構築されてきているとみることができます笑。NEJMとかJAMAとかのいわゆるトップジャーナルをありがたく読んだりとか、臨床疑問を解くためにだけ検索してダウンロードした論文を読むだけでは、ジェネラリスト脳にはなりません。

 

【どんなやり方で勉強したらよいのか?】

 基本的にケースを通じてです。外来、救急、病棟、在宅、診療所、病院といった診療のコンテキストの異なる場で出会ったケースをベースに、診療コンテキストの特徴を生かした経験を積みましょう。そして、JPCAの設定している提出ポートフォリオエントリー領域が何を期待しているかをいつも展望しながら学びをすすめましょう。

 

【どんな若手が育って行けば、総合診療・家庭医の未来は明るくなりますか?】
 様々な医療介護施設や地域にに総合診療医がいることが大事です。場所にかかわらず「共通の価値観」をもった医師グループになること、つまり規範的統合が可能な集団を目指すことです。そして、GeneralsitらしいSpecial interest、あるいはフィニッシュ・ムーヴをもつことも楽しいですが、それは、特定の疾患(特定の◯◯科ではない)、特定の問題、研究、教育、発信、政策等に関するものです。


【デジタル社会と家庭医療(総合診療)についてですが、「そう遠くない未来、自宅が診療所/病院と様々なデバイスで繋がり、多くの慢性疾患/急性疾患を自宅で治療する時代が来ると思っています。また私たちが今まで当たり前にしていた事がオンラインに置き換わっていくのではないかと感じております(在宅診療も徐々にオンライン診療とミックスされていく気がしています)。そうなると家庭医療を実践するチームに求められるintegrationの役割は更に増えるのではないでしょうか?】

 まったくそのとおりだと思います

 

【これから家庭医療がどんな発展をしていくとイメージしているか?】

 医者が脱神話化され、権威勾配がフラットになる世界で働く医師としての家庭医というイメージをもっています。つまり、孤高の医師(Lone Physician)という神話から協働的オルタナ医師(Collaborative Alternative)へのトランスフォームが進むと考えています。


【家庭医療の哲学ってなんですか】

 家庭医療のPhilosophical FoundationあるいはTheoritical Foundationに注目したのはマクウイニーで、それ以降はスタンバーグが重要で、著作にあたりたいところですね。で、個人的に注目しているのは、大陸哲学特に実存主義スピノザ、あとHavi Carelなどの現象学、そしてさらに重要だなとおもっているのはジャック=アラン・ミレールの精神分析学です。あくまで、個人的な考えですが。


【新専門医制度後の総合診療医の立ち位置】
 専門医機構にとっては、総合診療は組織自身の唯一の存在証明となっているので、学問や診療分野として運営側に大した関心はなくとも、必ず継続維持していくでしょう。ただし、専門医機構には教育、研究機能はありませんので、いわゆる学会やアカデミーの代わりはできません。大学の総合診療、ジェネラリスト系の学会、地域の教育や研究グループの発展がキーになるので、がんばりましょう。

 

【家庭医の専門性が社会にとって意味あるものとしてみとめられるための戦略は?】
 くりかえしますが、医師以外のヘルスケア専門家、そして意識的な市民にはそうとう意味のあるものとして、というか、そういう医者はやく増えて~という思いがたくさんあります、なぜなら、従来型の医師による「医師誘発性困難事例」が地域には多数あるからです。ぜひ、地域の困難事例の多職種カンファを定期的にやってみてください、そこで家庭医療がはたす役割を感じてください

 

 

【藤沼の5年後は?】
 診療:教育:研究の比率を2:5:3にします笑。そして、80歳まで社会に貢献できるためのスキルを、これから身に着けます笑。


【寄り添うことと依存(転移、逆転移)はどう違うか?】
 寄り添うという言葉は、ざっくりしすぎているので、もちっと分析が必要です。付け加えるとすると、寄り添っている自分はイケてるんじゃね?っていう承認欲求の表現だったりすることに注意。寄り添いすぎて、転移、逆転移が過剰になると、ATフィールドが崩壊し、自他の区別がつかなくなることは、実はバーンアウトに繋がります。

 

【都会と、地方では家庭医療の実践する上でどんな違いがありますか?】
 診療の内容、コンテンツ、患者層、受療行動はとても大きな違いがあります。でもプリンシプルは同じです。

【病院総合診療科と総合内科の違い】
 この質問多いですね笑。診療疾患、疾患の治療・手技に本質的な差異はありません。ただし、疾患の診断治療以外の診療実践レイヤーを「マネージメントや接遇」と捉えるか、本質的かつ「診断治療と等価」であるととらえるかの違いがあるといえばあります。が、重要なのは共通性や差異を分析して自分を規定しようとするのではなく、「ワイは総合診療科の医者だ!!」といいつづけるとだんだんそれっぽくなるので、しつこく言い続けましょう笑、アイデンティティの本質とはそういうことです。


【キャリアの点から総合診療医の専門医を取るメリットは何か?臓器別診療科の強みはわかるが、総合診療医の強みとは?】
 メリットで考えるとキャリアのことばかり考えるようになり、ドツボにはまるので、要注意です。こんなタイプの患者をこんな場所でこんなふうに診る仕事がしたい、と思えるかどうかでOKです。繰り返しますが、総合診療に排他的な強みはありません、相対的に弱みを少なくしていこうという志向です。 Special interestやフィニッシュ・ムーヴ(サブスペシャルじゃない)をもちつつ、ジェネラリストの段位向上をはかりましょう。

 

【非専門医であるためがどこまで治療していいのか?どこまでリスク判断をしていいのか?】
 すべての症状に関するレッドフラッグを熟知しておくことは必要です。で、専門医に紹介したほうがいい状態は、地域、施設の文化に依存します。


【臓器別診療科のDrとの棲み分けがむずかしいが、どうしたらよいですか?】
 とにかくお互い、人として仲良くやりましょう笑。さまざまなソーシャルなイベントやお付き合いが結構重要です。

 

【総合診療医がやっていることと内科医がやっていることが同じ?本当に総合診療って必要?】
 ほんと、みんなこのこと気にしてるんすね笑。卓越したジェネラリスト(Expert Generalist)ならその内科医は本物の総合内科医ですよ。で、どの疾患を診るかで自分の仕事を定義すると、旧劇の碇シンジになります。どっかで総合診療とか家庭医療って面白いな、やってみたいなという感覚がなければ、むりにエヴァに乗る必要はありません。

 

【総合診療からこそできることは?】
 総合診療医の存在意義は、場とチームと地域と患者がいてはじめて意味を持ちますので、総合診療の研修をしたからといって、宇宙空間でも総合診療医として存在することは不可能です。

 

【総合診療科が持つべき臓器別の知識は?どこまで知っていればいいのか?(救急、精神科 etc…)】
 これは、終わりのない旅のようなものなので、いつまでも「知らないことに出会ったら、その出会いを喜ぶ」という態度をもちつづければOKです。ただし、広範囲に博学であることは必要で、ナレッジベースを自身の「脳」以外にもつことが有用です。

 

内視鏡の手技も必要があるのか?いろんな考え方の指導医との付き合い方は?】
 内視鏡はそれが必要なコンテキストがあればトレーニングすればいいでしょう。指導医が自分のアイデンティティのコアになっているものを、それは私には必要ありませんといわれると気分を害することも確かですので「それはいいです」と軽くはいわないようにしましょう。


【総合診療をやっていく中で、他の診療科領域で、もっと勉強しておいたよかったなと思う分野は?】
 あまり思い浮かばないですが、 あえていうと精神医学、特に精神病理学ですかね。総合診療においては、整形外科を勉強するのではなく、筋骨格系の健康問題を勉強するというイメージでやること、小児科を勉強するのではなく、小児の健康問題を勉強するというイメージでやることですね。

 

【専門医を取った後のキャリアプランは?(他の道に行かれる先生もいらっしゃる?)】
 多様です。今後はもう医者+アルファでないと、厳しい時代になる可能性もありますね。そして、今後、医者っていったい何をする専門職なんですかってことが鋭く問われる時代がかならずやってくると思います。さて、個人的には、特に75歳くらいまでは、そこそこの生活ができる収入が得られるようになるためには、総合診療は非常によいキャリアチョイスだと思いますね。

 

Reeves spirea 2

プライマリ・ケア私的パール集 Part 4

2021年1月26日~2月9日までにTwitterに投稿した私的パールをまとめました

【50】
個々人が一日に必要とするコミュニケーション量は一定であり、高齢者の場合この量がかなり減少すると、それを補うコンテンツとして、物とられ妄想や嫉妬妄想などが生じる場合がある

 

【51】
これまで高齢発症の喘息と診断されてきた患者を初めて診るときは、まずは似たような症状を呈する別の疾患を考える

 

【52】
在宅患者における胆道感染症は、さまざまな状態変化の原因になり、しばしば見逃されやすい

 

【53】
高齢者の室内運動としてのスクワット指導のコツは、つま先ではなく、かかとに体重をのせる感覚で、背筋を伸ばして行うことであり、深く膝をまげなくても1日20回やると、腰痛の軽減など様々な効果が期待できる

 

【54】
高齢者の室内運動としてのカベ立て伏せは、10回1セットを1日2回やると、肩こりなどの症状緩和に役に立つが、肘をできるだけ深く曲げて、両側の肩甲骨を寄せる感覚でおこなうとより効果がある

 

【55】
プライマリ・ケア外来において、患者との会話が一定「はずむ」ことにより、病歴聴取は質の高いものになるが、そのために必要なコミュニケーションスキルの要素は、「傾聴」「驚く」「面白がる」である

 

【56】
医者が自分自身の病い体験を患者に話すことに何らかの価値が生じるのは、「医者は健康で、間違えない」という誤謬が患者にある場合に限る

 

【57】
病いからの回復・リカバリーや、癒やし(ヒーリング)は診察室の中で生じることはほとんどなく、むしろ家庭、地域で生じ、自然やモノとのかかわりによっても生じる

 

【58】
高齢者と同居している家族の負担で見過ごされているのが、高齢者からの頭重感やしびれ等の症状の相談をされることであり、家族としては「医者にかかったら?」「くすりをかえてもらったら?」「医者を変えたら?」くらいしか答えのレパートリーがないことが多い

 

【59】
往診してくれる獣医師がいることをお知らせすることが、救いになる高齢者はいる

 

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プライマリ・ケア私的パール集 Part 3

 2021年1月18日~25日までにTwitterに投稿した私的パールをまとめました

 

【38】
身体診察は、医学的診断のための検査、疾患のフォローアップのための検査、無症状の疾患を発見するcase findingsの3つの役割に加えて、いわば、診断とは関係ないHealing Touchとでもいえる役割がある

 

【39】
腹部の診察の際に重要な心理社会的問題が明らかになる場合がある

 

【40】
複雑困難事例がクライシスになりつつある場合、予定外の転居が安定化のきっかけになることがある

 

【41】
診断推論は、患者がなぜこの日、この時間に来院したのかが重要な出発点となる

 

【42】
主訴とはすでに医学的解釈を含んでいるので、いったん頭に浮かんだ主訴をいちどペンディングして、受診理由にフォーカシングしてみる

 

【43】
今一番お困りのことはなんですか?という質問で、患者の真の困りごとが明らかになることは少ない

 

【44】
定期通院患者で、アルコール問題や喫煙習慣のある場合、無関心期であっても、毎回診療の最後に「アルコールほんとへらすかやめたほうがいいよ」とか「タバコはやめたほうがいいよ」と一声かけると、数年後に問題が改善する場合がある

 

【45】
塩分をたくさん摂取しても、水分をたくさん飲めばからだのなかで「塩分がうすまって減塩になる」という解釈モデルは案外コモンである

 

【46】
若年層のカゼや軽症外傷は、普段医療の利用が少ない地域住民に出会う貴重な機会であり、普段気になっていることがないかどうかをさらっときくと、意外な問題を相談されることがある

 

【47】
高齢者の膝関節痛に対して、大腿四頭筋訓練を1回左右10回ずつ、1日3セット実施してもらうことは、NSAIDSより効果がある

 

【48】
白内障があると、明るいところも暗いところも、両方つらい

 

【49】
番外編~急に醤油の味がわからなくなったという訴えでは、まずCOVID19を考える

 

rainy cold weather

 

 

プライマリ・ケア私的パール集 第2弾

 2021年1月1日~16日までの私的パール集をまとめました。

 プライマリ・ケア私的パール」シリーズは科学的根拠や研究的根拠があるわけではなく、一般化可能性は低いです。これらはあくまで長い職業経験・臨床経験の省察に基づくTheory in Practice(実践の理論)です。つまり、ローカルで私的なコンテキストに基づいています。ただ、こうしたTheory in Practiceがある種の暗黙知としてナレッジベース化され、他の医療従事者のそれと接続することでMindlineを形成する可能性があると考えています。

 

  • 20歳以上年齢が離れた夫婦の場合、子育てと介護が同時に課題になっている可能性を考える

 

  • 他院で骨粗鬆症であちこち痛いのだと説明されている高齢者の中で、治癒可能な低リン血症性骨軟化症が存在する場合があるので、PとALPは一度は測定しておきたい

 

  • こどもの伝染性膿痂疹では、びらん面がほとんどない紅斑や赤色丘疹のみの場合がある

 

  • よい住居環境で育ち、しもやけ、ひび・あかぎれの経験がない若い医師は、凍瘡をSnap Diagnosisすることが難しい

 

  • 皮膚を常時ボリボリと掻く高齢者、特に在宅患者で臥床して「うとうと」していても、腹のあたりをひっきりなしに掻いている場合は疥癬を考える

 

  • 臥床がちで不活発な高齢者の類天疱瘡では物理的な擦過がすくないためか、水疱があまり目立たたず、軽いかゆみのある淡い紅斑だけのことがある

 

  • いわゆる身体症状症の症状は身体の正中線上、つまり鼻腔、咽頭、舌、食道、胸骨下部、心窩部、腰部、臍周辺、会陰に生じやすい

 

  • 夜間の決まった時間に身体症状症のような症状で頻回に来院する高齢者で、たまにエチゾラム離脱症状である場合があり、それが見逃されると、エチゾラムを処方されて帰宅させられていることがある

 

  • エチゾラムを毎食後定期で服用する処方は、たいていDifficult patientに対応しきれない身体科の医師によるものである

 

  • 高齢者の場合、全く症状がなくても2年に一度は腹部の触診を実施すると、無症状の腫瘤やAAAが見つかる場合がある

 

  • 夫と妻各々の生活機能が一人暮らしできるかどうか境界線上であっても、二人だと案外助け合ってうまく生活できる場合が多く、老老世帯は夫婦を一つのユニットとしてみて機能評価し、支援ポイントを探すのがよい

 

  • プライマリ・ケア外来で診断エラーが最も生じやすい症状は腹痛である

 

  • プライマリ・ケアではそれほど頻度は高くないが、診断エラーで衝撃をうける疾患は肺血栓塞栓症、急性冠症候群、大動脈解離、くも膜下出血であるので、それらはいつも念頭におく

 

  • がんの治療歴のある患者では、がんは「既往歴」ではなく、cancer survivorという継続的でactiveな問題としてリストアップしておく

 

  • 目の前の高齢患者は、はじめから高齢者なのではなく、こども時代があり、青春時代があり、出会いと別れがあり、誇りがあり、愛情や悲しみを経験してきたライフヒストリーがある

 

 

  • 糖尿病を含む多疾患併存の高齢者のケアにおいて、血糖コントロールが状況を改善するキーになることはほとんどなく、血糖コントロールにチーム全体が集中しすぎると、糖尿病治療誘発性困難事例に陥ることがある

 

  • 下降期慢性疾患や終末期において患者の自己/主体の一貫性を保証するものは日常ルーチンであり、日常ルーチンの下支えがケア構築の際のキーとなる

 

  • 家庭医の生涯学習は弱点補強型であるため、得意点強化型生涯学習の各科専門医に比べると、自己効力感が生じにくい

 

  • 各科専門医から家庭医に転身した場合、得意点強化型の生涯学習スタイルではなく、弱点補強型に切り替える必要があるがその際はアンラーニングに伴う不安が生じる

                  

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プライマリ・ケア 私的パール集 第1弾

 あけましておめでとうございます

 Twitterフォロワー数4000名超え記念で、断続的に連投Tweetした「プライマリ・ケア私的パール」シリーズは科学的根拠や研究的根拠があるわけではなく、一般化可能性は低いものです。これらはあくまで長い職業経験・臨床経験の省察に基づくTheory in Practice(実践の理論)です。つまり、ローカルで私的なコンテキストに基づいています。ただ、こうしたTheory in Practiceがある種の暗黙知としてナレッジベース化され、他の医療従事者のそれと接続することで、暗黙知のネットワークとも表現されうるだろうところのMindlineを形成する可能性があると考えています。

 2020年末までのTweetをここにまとめておくことも意味があるだろうと思います。「プライマリ・ケア私的パール」シリーズは2021年も引き続き断続的に続けていくと思います。Twitterにアクセスしていない方にも共有できるように、一定の数が蓄積されたら、こちらのBlogにもまとめてアップしていきます。

 では、これまでのTweetを以下にならべてみます

  • 口腔内違和感、舌が荒れる、口腔内乾燥感といった症状の原因としての「舌磨き」は案外多い

 

  • 高齢者が不眠を訴える場合、寝床に入る時刻をきくと、7時とか8時と答える場合が結構多い。理由きくと、TVも面白くないし、やることがないのでとのこと。夜間尿で12時前にはおきてしまうので、よけい焦燥感が高まってしまう

 

  • 漫然と被覆材が使われている難治性の皮膚潰瘍が、時に皮膚がん(特に有棘細胞がん)のことがある

 

  • 車椅子で通院している患者の下肢閉塞性動脈硬化症は、症状出現以前に指摘されることは少なく、下肢の重症虚血症状が生じて初めて診断されることが多いが、虚血症状のはじまりが趾間びらんのことがあり当初白癬として治療されている場合がある

 

  • 血圧と血糖に関しては、正常値を超えた「とたんに」なにか大変なことが生じると信じている患者は驚くほど多い

 

  • ある患者をずっと同じ医者が継続的に見ている場合、検査や所見、症状の変化を医者が無意識に「良い方」に解釈してしまうことがあり、これを「だいじょうぶマイフレンド・バイアス」と呼ぶ

 

  • COPDなどによる慢性呼吸不全で通院されていて、HOT実施中の方で、夕方以降に呼吸困難感が強くなる方の場合、胸壁に湿布を数枚貼ると楽になる場合がある

 

  • デイサービスで易怒性がめだつ高齢の認知症男性の場合、なんらかの疼痛(筋骨格系、泌尿器科系等由来のことが多い)を自覚している場合がある

 

  • インスリン自己注射が、「自分はちゃんと打てている」という自信を生み、自己効力感の源になっている場合がたまにある

 

  • 禁煙を決断できない理由に、「これからがまんしつづける人生がはじまるのか」という恐怖心があるので、「かならずタバコがアタマに浮かばなくようになります」と伝えることが大事

 

  • ほぼ自宅内でのみ生活している後期高齢者が、1-2日の経過で「すわっていると傾いてしまう」「立とうとするとへなへなしてしまう」麻痺ははっきりしない、という場合には発熱、硬膜下血腫も考える

 

  • ほとんど医者にかかったことのない中年以降の男性が軽い腹部症状を訴えて初診で来院した場合、腹部悪性腫瘍を疑う

 

  • 在宅ケア対象の高齢者の慢性心不全においては、労作時息切れにおける「労作」に乏しいため、悪化の早期発見には体重のこまめな測定がもっとも有用である

 

  • 高齢者が頭痛を主訴に来院した場合、頭痛の表現が「お釜をかぶったような重苦しさ」であればうつ病を疑う

 

heavy sky

MFGIPSあらため「FM is GP」というmnemonics

 小ネタです 

 7月7日のエントリーで「MFGIPS」について、鹿児島のDrたちが主催する学習会でお話する機会がありましたが、MFGIPSではなく、FM is GPのほうがいいのではないかという、素敵はご提案をいただき、そのニイマニクス(mnemonics)を使わせてもらうことにします。つまり、

 

F: Function

M: Multimorbidity

I: Intervention

S: Sultogenesis

G: Guidelines and Goals

P: Pain, Palliation and Prevention

 

これをまとめてMFGIPSあらためFM is GPとして今後使っていこうと思います。

ご提案いただいた方、ありがとうございました!!

Blue sky