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大学病院に残る医学部卒業生をどうしたら増やせるのか?

 いったいぜんたい大学医学部の教育プログラムの成果は何で図られるのか?ということに興味をもちまして、いろいろ懇談などしていますと、国家試験合格はまあ対外的には重要らしいのですが、内部的には卒業生が自分の大学病院の初期研修プログラムにどのくらいマッチするかってのが、最重要事項のようだという確信をもつに至っております。

 その大学の卒業生がその大学の研修プログラムに残らないっていうことが、大学内でこれほど問題になっているとは思わなかったですし、また基本的に大学外で職業生活をしてきたせいもあって、そうした状況にそれほど関心があるわけではなかったのですが、パートタイムとはいえ大学に出入りするようになって、そのことを考えてみようかとおもったのでした。

 まず卒前医学教育の成果=Outcomeとはなにで測定されるのかという原則的なところから考えてみます。
 卒前医学教育改革に関する提言をいくつか目を通してみますと、たとえば平成23年に発表された日本学術会議の提言「我が国の医学教育はいかにあるべきか」では、「疾病構造の変化、患者のニーズの多様化、生命科学や医療技術の急速な進歩などを背景として新しい世代の医療人の育成が求められている」といった理念的な目標にとどまっています。その他の文書をみても「患者中心の医療のできる・・・」とか「基本的人権を達成する云々・・・」といったヴィジョンが様々掲げられていますが、では大学卒前教育でこうしたヴィジョンが、どのくらい達成されているのかどうかという評価はなかなかみあたりません。研究あったら教えて下さい・・・(^_^;)。

 で、海外に目をむけてみますと、Kassebaumが医学部のゴールと関連したアウトカム測定あるいはインディケーターを提案しております*1

 この文献によると、メディカル・スクールのゴールをかいつまんで言うと以下のようになります。
入学の選抜

教育

  •  強力な基礎科学の基盤の提供
  •  模範となる臨床の知識とスキルの成長
  •  プロフェッショナルとしての態度の涵養
  •  学生とファカルティの密接なインタラクション
  •  卒後研修を成功させるための準備

キャリアと診療実践

  •  必要とされている、あるいは低く評価されている専門領域のキャリア(プライマリ・ケア等)を選ぶ医者が多い
  •  ライセンス試験(国家試験、専門医試験)の合格
  •  医療に恵まれない地域での診療実践を重視
  •  アカデミックな資源を更新すること、つまり大学での教育活動あるいは研究実践への参入

 このような領域に関して測定のやり方の方法も併記されています。

 きちんと測定していくことも重要だと思いますが、日本では、まずはこうした評価基準をつくることが重要かと思います。たとえば、CBTやOSCEもそうした評価項目になるとは思いますし、他にもあるのかもしれないが・・・。

 こういう目標をみてみると、ある大学の医学部卒業生がその大学の卒後教育プログラムに残るということが、真にアウトカムになりうるのかということに関しては、原理的には、それは違うように思うのですが、日本の医学部の教官が口をそろえて「問題だ」といっている現実は別の何かを表しているとしか思えないわけです。なにか、真のアウトカムの関連したなにかが「残る」「残らない」という言葉になっているのかもしれません(穿ち過ぎ?)。

 そこで、このことを2つの切り口からかんがえてみたいと思います。
 一つは自校教育の観点から、もう一つは学習共同体の観点からです。

 近年、大学では自校教育が注目されています(以下の記事参照)。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090722/169059/?P=1

 学生に対して建学の意義、大学史、自校の研究成果などについて教える授業のことを自校教育といいます。それは学生の大学への帰属意識が薄れているという現状に対応したものです。特に私立大学では、その目標は「愛校心」の涵養となりますが、国立大学ではどうもそうでではなくて、大学の最近の成果の講義などが多いようです。

 特に私立大学では卒業生も含めてコミュニティの形成、大学経営を支える基盤づくりとして捉えられています。いくつかの私立大医学部に出入りした経験では同窓会の存在はきわめて大きいものでした。こうした取組は、一部大学(東大等)を除くと国立大学では非常に弱いように思います。

 しかし、古臭い響きのもつ愛校心なるものを、どう高めるかという取り組みを、あまり経験のないところが急に始めるとおそらくスベる可能性が大です。むしろ、その愛校心の内実であるコミュニティづくり、もっというと学習と実践の共同体づくりを現代的にすすめるのが、今に生きる「愛校心」になるのではないかと思っています。
 例えば、今の医学部の教育が学習共同体づくりになっているのか、それを促進するカリキュラム(PBL:問題基板型学習IPE:専門職連携教育、そしてCOME:地域指向性教育、等)が重視されているのか、教員がそれに適応できるようなFDをやっているのかどうか、などが問われるでしょう。コミュニティ成立の基本は、メンバーの居場所と出番の保証です。そしてメンターとロールモデルの存在も重要です。
 そして、こうしたカルチャーが大学付属病院の医療や研修の基盤になっていないと、それこそ、教育-現場ギャップがあらわとなって、学生にはますますそっぽを向かれるでしょう。

 大学付属病院に卒業生をたくさんリクルートしたいのなら、「大学に残らないと結局生きていけない」「大学にのこればこんなに素晴らしい研究ができる」「大学にのこれば君たちはエリートの仲間入りだ」的な完全勝ち組意識丸出しのリクルートはやめることです。上述したようなカルチャーを涵養する努力を不断につづければ、たとえ目標像に到達していなくても、学生はその空気は感じるものです。そしてカルチャー改革の第一歩はおそらく、大学病院研修医のワークライフバランスの改善でしょう。
 今の勝ち組意識の高いベテラン医師とはちがって、現代の若者は生まれた時から不況が続く時代背景の中で育っています。そこを真剣に捉えないと間違えるでしょう。

 状況の変化はすぐには起こりませんが、道筋は見えているような気がします。

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*1:Kassebaum, G. The measurement of outcomes in the assessment of educational program effectiveness. Academic Medicine, 65(5), 293-6.1990