高齢者が入院することは、それ自体が機能低下のリスクになるため、できるだけ避けたいところである。北米あるいはヨーロッパでは、入院せずに済んだ可能性のある事例の研究から、プライマリ・ケアの現場で適切にマネージメントすることで、不必要な入院を防ぐことができる可能性のある状態をAmbulatory care-sensitive conditions (ACSCs)と呼び、研究がすすめられている[i]。ACSCsの分類は以下のとおりである。
- 悪化や再燃を防ぐことのできる慢性疾患
- 早期介入により重症化を防ぐことのできる急性期疾患
- 予防接種等の処置により発症自体を防ぐことのできる疾患
ACSCsで不適切な入院となる頻度は乳幼児と高齢者に多い[ii]。特に高齢者に関しては疾患自体のコントロールや、予防接種の頻度を上げることも重要だが、「入院を予防する」上でむしろ心理社会経済的な問題が重要となり、医師の技量というよりも、有効なチームの形成や、コミュニティのサポート力などがキーになる場面が多い。
Freudら[iii]は、ドイツのある地域の拠点病院における入院患者の中で、ACSCsと判断された104事例をとりあげ、紹介元の家庭医に「この入院は防ぎ得たか?」というテーマでインタビュー調査を行うという非常に興味深い質的研究を行った。その結果として、プライマリ・ケアの現場及び医療政策への提案として以下のような意見を提示している。
- 患者の社会的背景、服薬アドヒランス、セルフマネージメント能力などを評価し、ACSCsで入院のリスクの高い患者を同定すること。
- 処方を定期的に見直すこと。
- 入院のリスクの高い患者には定期的に電話で状態を聞くこと
- 患者及び介護者にセルフマネージメントについて教育すること。とくに症状悪化時の対応法
- 患者に必要なソーシャルサポートシステムや地域リソースを探索すること
- TV電話や遠隔モニタリングの導入
- 患者にかかわる各セクターとの日常的なコミュニケーションの強化する
- ACSCsで入院となった責任は各セクターで共有すべきで、プライマリ・ケア現場のみに帰するべきでないという合意形成する
- ACSCsに関するデータの継続的集積
- 医療者教育において異文化コミュニケーション教育を重視
こうした提言は、日本においても充分に当てはまるところであり、これらのスキルをそなえた家庭医を地域に配置することが、高齢者救急や入院にともなう地域拠点病院への負担を軽減することにつながるだろう。
[i] Purdy S, Griffin T, Salisbury C, Sharp D. Ambulatory care sensitive conditions: terminology and disease coding need to be more specific to aid policy makers and clinicians. Public Health, 123(2): 169–173, 2009
[ii] Purdy S. Avoiding hospital admissions. What does the research say? The King’s Fund. December 2010
[iii] Freund T, Campbell SM, Geissler S, et al. Strategies for reducing potentially avoidable hospitalizations for ambulatory care–sensitive conditions. Ann Fam Med, 11(4):363–370, 2013