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エキスパート・ジェネラリストとはオルタナで協働的である

 Complex interventionはジェネラリストらしい、あるいはジェネラリストが非常に価値のあるものとしてうけいれることができるような「介入」を考えていく上で非常に示唆的なコンセプトである。

 このエントリーでは、プライマリ・ケアの場面(General Praticeのセッティング)で慢性心不全QOLの向上に対して、Complex interventionが効果があるかどうかをランダム化比較試験:RCTで検証するという研究プロトコールを題材に考えてみる。文献は以下のものを使用する。

 

Peters-Klimm, F., Müller-Tasch, T., Schellberg, D., Gensichen, J., Muth, C., Herzog, W., & Szecsenyi, J.: Rationale, design and conduct of a randomised controlled trial evaluating a primary care-based complex intervention to improve the quality of life of heart failure patients: HICMan (Heidelberg Integrated Case Management). BMC cardiovascular disorders, 7(1), 25, 2007


http://www.biomedcentral.com/1471-2261/7/25/

 

 この論文のリサーチクエスチョンをPICOで書くとこんな感じである。

P:プライマリ・ケアでフォローアップされているCHFの患者
I:Complex Interventionを実施
C:従来のケアを実施
O:QOLの向上

 この研究におけるInterventionの内容の概略は以下のようなもので、確かに複雑、Complexである。

1.診療所看護師に役割や患者との関係について説明
2.患者は疾患についての説明をうける。症状、セルフモニタリングの仕方を理解。その際に疾患に関するブックレットを配布
3.患者のリスクに応じて状態モニタリングを看護師が行う
*NYHA1&2では6週毎に電話フォロー&年に3回の自宅訪問
*NYHA3&4では3週毎に電話フォロー&年に3回の自宅訪問

 電話では身体症状、内服の問題についてインタビュー
 自宅訪問では構造化されたやりかたで患者の状態を評価、ライフスタイルを構造的に評価、また、うつ、不安、簡易CGAと詳細な服薬状況のチェックを行う
4.看護師の訪問後に医師を受診させ、医師は患者の生活習慣、喫煙、運動、セルフマネージメントなどについてカウンセリングを行う
5.リマインダーシステムをつくる
6.医師に対して、担当している慢性心不全の患者集団の投薬内容もふくめたデータを送付して、フィードバックを行う

 

 このプロトコールはプライマリ・ケアにおける慢性心不全のケアに関して、これまで様々な研究で実証されているEvidenceを組み合わせて、プロトコールを作成し、RCTによりその効果(QOL)を見ようとしている(図参照)。

 

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 この研究自体は第2世代橋渡し研究だといえる。しかし、様々なレベルの様々な要因がからみあうのが臨床現場。たとえば心不全の予後に関して強力なEvidenceのあるβブロッカーを、プライマリ・ケアの現場で投与してその効果をみるということだけでは、生存率だけではない多様なアウトカムを設定しなければならない臨床現場における第2世代橋渡し研究としては適切でないのではないか。

 より臨床現場に近い介入として、様々なEvidenceを組み込み、実証はされているわけではないが有力と思われる理論なども検討して、プロトコールを組み上げ、専門職が連携して実践する、すなわちInterprofessional workという形に構築することがComplex interventionであるといえるかもしれない。これが本当に有効なのかということを上図のようにRCTで評価しようというのがこの研究なのだろうと思われる。

 しかしこうしてみてみると、Complex interventionは、現場のチームの診療実践そのものであり、もしこの実践の有効性がRCTで証明できるのならば、それはEvidence based practice:EBPあるいはGood Practiceといえるのはないか。そして、このEBPを他の現場にひろげていくことが次の段階になる。そこにこれまでのエントリーにも記述してきたImplementation science:実装科学が重要になってくるのだろう。

 ただし、次のエントリーで紹介を予定している助産師の地域実践におけるComplex Interventionの研究とその省察の論文を読むと、より事態は複雑である。端的にいえばComplex interventionそのものが介入した対象から影響をうけるということに関する検討が必要ということである。おそらく、この慢性心不全の研究はまだ一般の効能研究の枠内にある。真にComplex interventionの検討をするためには直線的な因果論ではない、別の因果論が必要かもしれない。それは複雑適応系に関連したものかもしれないし、構造因果性(アルチュセール)なのかもしれない。

 ひとついえることは、こうしたComplex interventionを実施する医者は、もはや孤高の医師(Lone physician)ではありえず、SabaのいうCollaborative alternativeな医者だろうと思う。オルタナで協働的であること、それがエキスパート・ジェネラリストのあり方なのである。

 

参考文献 Saba, G. W., Villela, T. J., Chen, E., Hammer, H., & Bodenheimer, T.: The myth of the lone physician: toward a collaborative alternative. The Annals of Family Medicine 10(2), 169-173, 2012

 

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