EBP実装には究極の医療組織マネージメント能力が必要

 今回のエントリーではこの文献を取り上げます。


TITLER, Marita G., et al. Translating research into practice intervention improves management of acute pain in older hip fracture patients. Health services research, 2009, 44.1: 264-287.

リンクは→http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2669630/

 

 このアイオワ大学におけるEBPIに関する前向き研究には相当インスパイアされましたが、特に、EBPイノベーションとしてとらえ、イノベーションのSpreadモデルに影響をうけた、トランスレーション研究の枠組みを使っているところが新しいと思いました。

 この研究では大腿骨頚部骨折で入院した高齢者の疼痛コントロールの質が、疼痛管理に関するEBPを病棟に実装することで、改善することを、(そういう言葉ではかいてありませんが)Cluster randamizaionの手法を使った実験的研究により証明しています。およそ3年にわたる非常に大規模で入念な研究で、EBPの実践報告としては極北的な印象を持ちます。ちなみに個人的にヒジョーに興味のある、Cluster Randomizationについても考察したいところですが、この研究における介入手法の枠組みがなかなか興味深いので、今回はここに的をしぼって整理しておきたいと思います。

 おそらく日本での適用も可能な介入プログラムだと思います。ある病院でなにかあたらしいEvidence basedな実践あるいはプロジェクトをすすめていくさいに参考になるのではないかと思います。

 

 著者らのイノベーションの定義に関して

 Research evidenceに基づく診療、すなわちEvicence based practice:EBPとはそれを採用してもらいたい組織にとってはイノベーションである、といっています。イノベーションとは、個人あるいは集団にとって新しい、あるいはまだ使っていないアイデア、実践、あるいは対象物のことをいいます。このイノベーションの採用を促進するためにTranslation research modelを採用しているのがアイオワ大学ですTranslating research into practiceを略してTRIPと呼びます。

 TRIPの3つのコンポーネント
1.TRIP第1コンポーネントイノベーションEBPの内容自体に関する検討です

EBPの実践には相対的優位点があることを確認。
EBPが現状の価値観や基準、現場職員ののニーズ、業務内容と矛盾しないことを確認。
EBPの複雑性の程度を評価する。

*上記の評価を元に、EBPクイック・リファレンス・ガイドを作成。

*これらプロセスはコアチームが中心になって、多職種で作成します。他職種がリサーチエビデンスの批判的吟味などができるようなプログラムも導入します。

 

2.TRIP第2コンポーネントはコミュニケーションの領域への介入です
オピニオンリーダーたちを見つけて賛同してもらう
 影響力があるj人と衆目一致しており、尊敬され信頼されている人々でイノベーションとローカルな状況をフィットさせるための判断が下せる人たちのこと。現場をこえて外部へに影響力をおよぼす幅広い繋がりをもっている。

チェンジ・チャンピオンたち(Change Champions)を見つけ育てる
 チェンジ・チャンピオンとは個々の現場における優れた臨床家であり、ケアの質を改善することに責任を負っており、他のチームメンバーと仕事におけるポジティブな役割を維持している人たちのこと。

*教育の提供活動(Educational outreach)の実施
 現場を訪問するなりして、て面的な教育的なかかわりを深めていくこと。

 

3.TRIP第3コンポーネントは社会システム(Social system/context)です
*リーダーからのサポートは、口頭、書面を通じて表明され、必要な資源、材料、時間確保を行うことである。
*上級管理者に対する継続学習プログラムによるEBPを推進する際の役割をディスカッションする。
*関連する診療基準やパスの文書を実情にあわせて見直しモディファイする
*内部向けニュースレターの発行を行う

 この論文におけるトランスレーション研究のモデルを元にしたEBP実装の具体的構造で、なるほどと思ったのは、オピニオン・リーダーとチェンジ・チャンピオンの重要性です。おそらく日本におけるEBM普及については、個々の医者の啓発の問題に還元されてしまいがちです。EBMあるいはEBPを組織内文化とするためには、医者個人の学習を推進するだけでは、厳しいと思います。

 この論文ではこうした介入を行った病院群における頚部骨折の痛みのマネージメントが改善し、実際患者の痛みの程度も低下したことがあきらかになっています。患者アウトカムに影響をあたえたということがなかなかスバラシイと思いました。きっと論文にかかれている以上の様々なダイナミックな動きがあったんだろうと想像もしたのでした。

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