若い学生や研修医が総合診療に魅力を感じるためには

 若い人が総合診療の仕事に魅力を感じるところはいったいどこなのか?このテーマに関しては、これまで質的、量的に研究されてきた。今回のエントリーでは、僕自身が20年以上若い医師が、ジェネラリストの道をあゆむようになったケースをみてきて、確信をもっているいくつかの要因を列挙してみたいと思う。

 このエントリーは第11回プライマリ・ケア連合学会学術大会における病院総合医あるいは日本版ホスピタリストをめぐるいくつかのセッションにインスパイアされて作成した。

 

要因1:総合医診療医が診ているタイプの患者層と、その患者に対する診療の様子が魅力的に思えた

要因2:総合診療医が仕事を楽しそうにやっている

要因3:総合診療医が基盤とする学的領域、すなわち家庭医療学とEvidence Based Medicine、そしてその関連領域(医療政策、医療経済、医療倫理等)が知的に面白いと感じ、研究する領域があるのだと感じた

要因4:医師や生活者としてのロール・モデルを総合診療領域に見つけた

 

 それぞれについてすこし考えてみよう。

要因1:総合診療医が診ているタイプの患者層に興味をもつということは、非常に日常的で軽症の疾患から複雑困難なMultimorbidityまで様々な構造の健康問題に対処していることに尽きる。疾患の多様さではなくて、健康問題の構造的多様性に対して興味を持つのである。したがって、総合診療が対応する健康問題の構造的多様性を見てもらうためには、ひとつの診療の場(例えば病棟)だけでは足りない。病院の外来、診療所、在宅、施設など多様な場での診療で、様々な総合診療医の対応の様子を診てもらう必要がある。この場合、多様な場での活動であっても、総合診療の基本的な価値観が常に貫かれている必要がある。つまり、総合診療としての規範的統合が異なる診療の場で形成されていなければならない。この場合、一人の総合診療医がすべての場を掛け持ちしている必要はない。規範的に統合された総合診療チームメンバーが様々な場に散種されていればよい。共有すべき価値観とは「疾患と病の意味を同等の価値を持つものとして捉えること」ということ、つまりは家庭医療学の基本原則のそれに尽きるだろう。

 

要因2:仕事は基本的に自分で「楽しいもの」に変えていく必要がある。そのための現場のシステムの見直しや、評価のしくみ、リクリエーション、No Blame Cultureな雰囲気作りなどMacroからMicroまで、仕事を楽しくするための様々なシステム工夫が継続的におこなっていくことである。すくなくともZ世代に楽しそうにみえるということは、昭和レガシーまみれの医者コミュニティの価値観(一例でいえば、運動部体質、あるいはマチズモ、ホモソーシャル等)を打破することは必須になってきている。おそらく総合診療は他の伝統的医局とはことなる組織文化を意識的に形成する必要がある。

 

要因3:他の総合診療部門との横のつながりによる、知的インプットとアウトプットの増強をはかることである。特に総合診療やプライマリ・ケア研究ですでに実績のあるところとのネットワーク形成が戦術的にはもっとも効果的である。知的に興奮するような領域が存在することは若いプロフェッショナルのキャリアチョイスには必須であると思う。

 

要因4:ロール・モデルとはなにか。これは決まったパターンはない。しかし、個人的には、完璧なリーダーシップがあるとかマスター臨床医であることとはちょっと違うと思う。むしろ、仕事を楽しくやっていること、いつも好奇心があること、注意深い観察力があること、話を良く聞くこと、若い人から学ぼうという姿勢があること、そこにいるだけで安心できる存在感があること、といったことである。

 

 以上述べたことは、病院総合診療でも地域社会総合診療でも、あるいは病院家庭医でも地域社会家庭医でも、それらに共通のキャリア・チョイスするための要因であると思う。

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