総合診療のエキスパートとしての「病院総合医と家庭医」の連携

 かつての診療所プライマリ・ケア医(多くは開業医だった)と病院医師の関係は,出身医局といういわば相撲業界的な部屋制度に依存していたといえるかもしれない。だから,出身大学や出身病院と連携可能な場所でプラクティスをおこなう医者が多かったといえるだろう。しかも,その医局「部屋」の人間的なつながりは,異常なほど活発で,医学部だけで作っている独自の閉鎖的な部活動の上下関係がそれを下支えしていた。
 例えば僕などは医学部のオリエンテーションの初日に,医学生は「部活動,特に運動部に参加しないと将来医者として生きていけない」というような,脅迫に近い説明を大学教員から受け,驚愕したものである。
 しかし,時は流れ,もはやかつての医学部で養われてきた独特な人間関係性あるいは,特殊なテーマ・コミュニティは消滅しつつあり,それを基盤に成り立っていた医療連携もその性質を変えた。

 また,地域包括ケアの時代になり,医者だけの閉じた空間が多職種連携というパワーに融解されつつあると同時に,診療所-病院連携も別次元の発想が必要になってきた。
 ここで紹介したいのは,総合診療医学,あるいはGeneralist Medicineを基盤にした医師像の二つの派生形態である「家庭医と病院総合医」間連携の今日的な意義である。今日的というのは地域包括ケアの時代におけるということである。

1.診断未確定だが、入院が必要とおもわれる患者についての連携
 在宅療養中の患者が発熱して、バイタルサインに問題がある。何らかの病態による「菌血症」ではないか。あるいは、状況からは「誤嚥性肺炎」も「尿路感染症」もありうるといった場合に、入院を相談する電話を病院にかけたとしよう。
「わかりました。何科のドクターにおつなぎしましょうか?」
「え~と、内科で……」
「どの内科でしょう?」
といった電話口でのやりとりは日常茶飯事であったが、強力な総合診療科と連携するようになって話が早くなった。なぜなら、このような患者の問題が地域で生じやすいことを、病院総合医はよく知っているからである。

2.診断はついているが、経過が非定型的な場合
 たとえば、「市中肺炎」と診断して外来で治療を開始したものの発熱が長引き、このまま治療継続したほうがいいのか、あるいは入院させて経過観察したほうがいいのか、判断が難しい場合である。病院に入院の相談で電話をかけると、
「すいません。肺炎球菌性肺炎で、外来で抗菌薬を使用して経過みてたんですけど、熱が下がらず本人が不安がっているもので、入院をお願いしたいんですけど」
「ああ、菌も確定しているし、抗菌薬を◯◯に変更して、もう少し経過みてください」
「えっと、本人が不安がっているんですけど」
「変更して数日経過みてダメなら、もう一度電話ください」
といったやりとりもよくあった。しかし、強力な総合診療科があると話が早い。なぜなら、入院の理由は医学的な適応だけでないことと、診療所でこういう患者を抱えることの困難性をよく知っているからである。

 あげれば枚挙にいとまがないが、家庭医と病院総合医の有機的な連携が可能なのは、トレーニング過程で共通項が多く、価値観や患者観が共有できていることに影響されており、総合診療がインクルーシブ(inclusive:とりあえず診ますということ)な専門科であることについての「規範的統合」ができるていることに基づいている。

 ちなみに,目の前の事例が自分の仕事かどうかを判断することからはじめるタイプの診療をエクスクルーシブ(exclusive)と僕は呼んでいる。インクルーシブかエクスクルーシブかは医者の仕事のスタイルを大きな2つのベクトルであると考えている。「インクルーシブ」な「専門科」といってしまうと,2つの語彙同士が矛盾するするのであるが,僕の考えでは,インクルーシブな専門医はスペシャリストではなくて,エキスパートと呼んだほうがよりニュアンスが伝わるかもしれない。つまり,総合診療のエキスパートが総合診療「専門医」の意味するところだと思う。

 ところで,家庭医は、病院総合医にお願いするばかりではない。たとえば1.2.のケースでは、診断未確定で入院依頼するにしても、血液培養や喀痰培養を実施しておくことは入院医療のサポートにつながる。むろん、不必要な入院を防ぐのは、家庭医の役割である。そして、病院での治療途中でやむなく退院し「在宅医療」に移行する場合、病院総合医は家庭医のチームにその後を安心して委ねることができるだろう。

 「家庭医」と「病院総合医」が“同じトレーニングプロセス”を共有していることが、地域包括ケア時代の真の病診連携につながるのである。

 

注:このエントリーは医学書院「総合診療」2017年11月号(Vol.27 No.11)に寄稿した Editorialに加筆訂正を加えたものである。

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