総合診療/家庭医療に関心のある医師からの質問にカジュアルに答えてみたセッションの様子

 今年4月に学会(JPCA)地方会にリモート参加しました。「あらかじめ総合診療/家庭医療の専攻医や指導医からの質問を集ますので、その質問に答えるようなレクチャーをお願いします」というリクエストがあり、自分的にもはじめてトライするタイプのプレゼンだったので、かなり悩みましたが、やってみました。

 その時の語りをそのまま文字化するのは大変なので、ブログエントリーとしては作らない予定でしたが、「話のアウトラインだけ」でよいので、公開してほしいというご要望もあり、読み物としては成立していないのですが、アウトラインのみエントリーにしてみることにしました。

 読みにくいと思いますが、実際のプレゼンでは、たくさんの質問に対して一言コメントみたいな感じで返す感じになりましたので、実は、このアウトラインがすべての発言内容であったともいえます。

 質問、そしてこの答えという感じで列挙していきます。よろしくおねがいします。


【日本において今後の総合診療医、家庭医の立場はどうなって行くと思うか?】
 日本において、その必要性はすでに医師以外のヘルスケアプロフェッショナルには広く認知されています。ただし、世界史的には、医師集団自体がジェネラリストの必要性を認識し生み出し確立させた国はなく、ほぼ、国策=ヘルスケアシステムの再構築、あるいは市民団体などの運動と連動して生じているという事実は認識しておいたほうがよいです。

 

【Mtimorbiditydの患者のどのような点に注目したり、注意して診療しているか?】
 Basic Multimorbidity、Complex Multimorbidity、Multiple Functional limitationsをわけてとりくんでいます。健康問題を疾患の累積ではなく「構造」としてとらえることが大事です。健康問題を「構造」としてとらえることはGeneralism=総合性のキーの一つです。

 

【コロナ禍で地域ヘルスプロモーションが限定されますが、どのような取り組みをされていますか?】

 現実的には、ソーシャルディスタンスの関係もあって、従来型のものはもはや不可能になってきてて、まったくあたらしいコンセプトで創造的にとりくむしかないと思い始めています。安宅和人さんのいう「開疎化」や、「換気概念のアップデート」「SocialとPhysicalの距離の質的差異」「テクノロジーを使い倒す」「 紙メディアの再評価」などのキーワードで考えたり、ディスカッションしているのが現状です。

 

【家庭医としてのやりがいはどこに?】
 個人的には、様々な人、様々な問題にであえること、健康問題のヴァリエーションと振り幅の広さがあり、地域、社会、文化、グローバルIssuesへの接続可能性が魅力です。

 

【総合診療・家庭医療の専門性とは?】
 卓越性はありますが、排他的な専門性はありません。むしろ「段位」があります。

 

【家庭医やっててよかったなぁ」と思った瞬間は?】
 往診途中で、こどもから挨拶されたとき。

 

【若いうちに身につけておきたいこと、勉強しておきたいことを教えて下さい】

 謙虚であるということが一番重要で、特にこれを勉強しておきなさい、ということはありません。

 

【大切にしている家庭医・総合診療医の素質・アイデンティは?】
 病いや障がい、苦悩や苦痛の意味に興味をもてることでしょうか。その人にとってベストは何かを考えられることですね。

 

【読んで置くべき教科書・論文は?】

 特に指導医はAnnals of Family MedicineやJournal of General Internal Medicineなどのジェネラリスト系専門誌に親しみましょう。目次をみて、何に関する話題なのかを想像できるようになると、ジェネラリスト脳が構築されてきているとみることができます笑。NEJMとかJAMAとかのいわゆるトップジャーナルをありがたく読んだりとか、臨床疑問を解くためにだけ検索してダウンロードした論文を読むだけでは、ジェネラリスト脳にはなりません。

 

【どんなやり方で勉強したらよいのか?】

 基本的にケースを通じてです。外来、救急、病棟、在宅、診療所、病院といった診療のコンテキストの異なる場で出会ったケースをベースに、診療コンテキストの特徴を生かした経験を積みましょう。そして、JPCAの設定している提出ポートフォリオエントリー領域が何を期待しているかをいつも展望しながら学びをすすめましょう。

 

【どんな若手が育って行けば、総合診療・家庭医の未来は明るくなりますか?】
 様々な医療介護施設や地域にに総合診療医がいることが大事です。場所にかかわらず「共通の価値観」をもった医師グループになること、つまり規範的統合が可能な集団を目指すことです。そして、GeneralsitらしいSpecial interest、あるいはフィニッシュ・ムーヴをもつことも楽しいですが、それは、特定の疾患(特定の◯◯科ではない)、特定の問題、研究、教育、発信、政策等に関するものです。


【デジタル社会と家庭医療(総合診療)についてですが、「そう遠くない未来、自宅が診療所/病院と様々なデバイスで繋がり、多くの慢性疾患/急性疾患を自宅で治療する時代が来ると思っています。また私たちが今まで当たり前にしていた事がオンラインに置き換わっていくのではないかと感じております(在宅診療も徐々にオンライン診療とミックスされていく気がしています)。そうなると家庭医療を実践するチームに求められるintegrationの役割は更に増えるのではないでしょうか?】

 まったくそのとおりだと思います

 

【これから家庭医療がどんな発展をしていくとイメージしているか?】

 医者が脱神話化され、権威勾配がフラットになる世界で働く医師としての家庭医というイメージをもっています。つまり、孤高の医師(Lone Physician)という神話から協働的オルタナ医師(Collaborative Alternative)へのトランスフォームが進むと考えています。


【家庭医療の哲学ってなんですか】

 家庭医療のPhilosophical FoundationあるいはTheoritical Foundationに注目したのはマクウイニーで、それ以降はスタンバーグが重要で、著作にあたりたいところですね。で、個人的に注目しているのは、大陸哲学特に実存主義スピノザ、あとHavi Carelなどの現象学、そしてさらに重要だなとおもっているのはジャック=アラン・ミレールの精神分析学です。あくまで、個人的な考えですが。


【新専門医制度後の総合診療医の立ち位置】
 専門医機構にとっては、総合診療は組織自身の唯一の存在証明となっているので、学問や診療分野として運営側に大した関心はなくとも、必ず継続維持していくでしょう。ただし、専門医機構には教育、研究機能はありませんので、いわゆる学会やアカデミーの代わりはできません。大学の総合診療、ジェネラリスト系の学会、地域の教育や研究グループの発展がキーになるので、がんばりましょう。

 

【家庭医の専門性が社会にとって意味あるものとしてみとめられるための戦略は?】
 くりかえしますが、医師以外のヘルスケア専門家、そして意識的な市民にはそうとう意味のあるものとして、というか、そういう医者はやく増えて~という思いがたくさんあります、なぜなら、従来型の医師による「医師誘発性困難事例」が地域には多数あるからです。ぜひ、地域の困難事例の多職種カンファを定期的にやってみてください、そこで家庭医療がはたす役割を感じてください

 

 

【藤沼の5年後は?】
 診療:教育:研究の比率を2:5:3にします笑。そして、80歳まで社会に貢献できるためのスキルを、これから身に着けます笑。


【寄り添うことと依存(転移、逆転移)はどう違うか?】
 寄り添うという言葉は、ざっくりしすぎているので、もちっと分析が必要です。付け加えるとすると、寄り添っている自分はイケてるんじゃね?っていう承認欲求の表現だったりすることに注意。寄り添いすぎて、転移、逆転移が過剰になると、ATフィールドが崩壊し、自他の区別がつかなくなることは、実はバーンアウトに繋がります。

 

【都会と、地方では家庭医療の実践する上でどんな違いがありますか?】
 診療の内容、コンテンツ、患者層、受療行動はとても大きな違いがあります。でもプリンシプルは同じです。

【病院総合診療科と総合内科の違い】
 この質問多いですね笑。診療疾患、疾患の治療・手技に本質的な差異はありません。ただし、疾患の診断治療以外の診療実践レイヤーを「マネージメントや接遇」と捉えるか、本質的かつ「診断治療と等価」であるととらえるかの違いがあるといえばあります。が、重要なのは共通性や差異を分析して自分を規定しようとするのではなく、「ワイは総合診療科の医者だ!!」といいつづけるとだんだんそれっぽくなるので、しつこく言い続けましょう笑、アイデンティティの本質とはそういうことです。


【キャリアの点から総合診療医の専門医を取るメリットは何か?臓器別診療科の強みはわかるが、総合診療医の強みとは?】
 メリットで考えるとキャリアのことばかり考えるようになり、ドツボにはまるので、要注意です。こんなタイプの患者をこんな場所でこんなふうに診る仕事がしたい、と思えるかどうかでOKです。繰り返しますが、総合診療に排他的な強みはありません、相対的に弱みを少なくしていこうという志向です。 Special interestやフィニッシュ・ムーヴ(サブスペシャルじゃない)をもちつつ、ジェネラリストの段位向上をはかりましょう。

 

【非専門医であるためがどこまで治療していいのか?どこまでリスク判断をしていいのか?】
 すべての症状に関するレッドフラッグを熟知しておくことは必要です。で、専門医に紹介したほうがいい状態は、地域、施設の文化に依存します。


【臓器別診療科のDrとの棲み分けがむずかしいが、どうしたらよいですか?】
 とにかくお互い、人として仲良くやりましょう笑。さまざまなソーシャルなイベントやお付き合いが結構重要です。

 

【総合診療医がやっていることと内科医がやっていることが同じ?本当に総合診療って必要?】
 ほんと、みんなこのこと気にしてるんすね笑。卓越したジェネラリスト(Expert Generalist)ならその内科医は本物の総合内科医ですよ。で、どの疾患を診るかで自分の仕事を定義すると、旧劇の碇シンジになります。どっかで総合診療とか家庭医療って面白いな、やってみたいなという感覚がなければ、むりにエヴァに乗る必要はありません。

 

【総合診療からこそできることは?】
 総合診療医の存在意義は、場とチームと地域と患者がいてはじめて意味を持ちますので、総合診療の研修をしたからといって、宇宙空間でも総合診療医として存在することは不可能です。

 

【総合診療科が持つべき臓器別の知識は?どこまで知っていればいいのか?(救急、精神科 etc…)】
 これは、終わりのない旅のようなものなので、いつまでも「知らないことに出会ったら、その出会いを喜ぶ」という態度をもちつづければOKです。ただし、広範囲に博学であることは必要で、ナレッジベースを自身の「脳」以外にもつことが有用です。

 

内視鏡の手技も必要があるのか?いろんな考え方の指導医との付き合い方は?】
 内視鏡はそれが必要なコンテキストがあればトレーニングすればいいでしょう。指導医が自分のアイデンティティのコアになっているものを、それは私には必要ありませんといわれると気分を害することも確かですので「それはいいです」と軽くはいわないようにしましょう。


【総合診療をやっていく中で、他の診療科領域で、もっと勉強しておいたよかったなと思う分野は?】
 あまり思い浮かばないですが、 あえていうと精神医学、特に精神病理学ですかね。総合診療においては、整形外科を勉強するのではなく、筋骨格系の健康問題を勉強するというイメージでやること、小児科を勉強するのではなく、小児の健康問題を勉強するというイメージでやることですね。

 

【専門医を取った後のキャリアプランは?(他の道に行かれる先生もいらっしゃる?)】
 多様です。今後はもう医者+アルファでないと、厳しい時代になる可能性もありますね。そして、今後、医者っていったい何をする専門職なんですかってことが鋭く問われる時代がかならずやってくると思います。さて、個人的には、特に75歳くらいまでは、そこそこの生活ができる収入が得られるようになるためには、総合診療は非常によいキャリアチョイスだと思いますね。

 

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