家庭医を長年やっていますと、やはり自分の現場に直接かかわる研究は非常に興味がありますし、特にプライマリ・ケアフィールドで実施された研究は、自分自身の診療にあたえる影響も大きいですし、また知的な楽しみや刺激があります。ですので、研究論文を読むだけでなく、自分たちでリサーチグループ(Practice based research network:PBRN)を構築して、研究活動もやっていますが、昨年Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQから認証を受けています!以下のリンクを御覧ください。
PBRN | 家庭医療学開発センター CFMD|日本医療福祉生活協同組合連合会
ところで、プライマリ・ケア研究のためのファンド=研究資金はなかなか獲得しにくいことは洋の東西をとわず同じようです。
米国の著明な家庭医で、疫学の専門家であり、US preventive service task forceの中心人物であるMark Ebellが2013年の北米プライマリ・ケア研究グループ(NAPCRG、世界最大のプライマリ・ケア研究の学会)の記念講演で示したプレゼンがめっぽう面白いので紹介したいと思います。
タイトルは「Research on the Cheap: Making an Impact Without Big Grants」で、思い切り意訳すると「お金がなくてもインパクトのある研究はできるよ!」っていうタイトルです。ヤラレタ/(^o^)\ですね。
結局研究資金獲得を目指して、たくさん書類を作って応募しても落ちる確率が高いということを統計データなど使って説明しつつ「まあ落ちてもがっかりせず、前進する方法はある」って言ってます。
彼は、前進するために必要なのは、以下の4つをあげています。
- 良いリサーチ・クエスチョンを生み出すこと
- 1つの臨床問題に関してシステマティックに考えること
- イノベーティブだが質素な(つまりあまりお金がかからない)研究デザインとツールを使うこと
- 研究力を増幅するために、他の医者や研究者とコラボすること
ひとつひとつみていきましょう。
1.「よいリサーチクエスチョンを生み出す」
そのためには以下の5項目が必要とされます。
- たくさん読むこと!自分の関心領域で研究論文が薄い領域をしること
- 自分の診療を省察すること
- 自分の診療における前提を疑うこと
- 権威筋を疑うこと
- 自分が情熱をもってとりくめる領域をピックアップすること
- 同僚と、とくに異領域の同僚とブレーンストーミングすること
2.「1つの臨床問題をシステマティックに考えること」
その意味は以下のようになります。
*鑑別診断は何か?それらの検査前確率はどうか?
検査閾値、治療閾値はどうか?Clinical vignetes研究が有用。この領域は非常に重要かつこれまでの研究がうすい領域である。自分たちは検査と治療の閾値をいかに決断しているのか?専門科、患者によって違うのか?この研究を通じてClinical decision toolが作成できるか?
*病歴、身体診察、診断検査をどのように使うのがベストか?それらからえられる情報をわれわれはどのように使っているのか?
身体診察の研究はまだ十分行われていない、特に身体所見に関する評価者間の信頼性の研究が少ないので同じ患者を二人の医師が診察して比べてみる研究が必要で、Systematic reviewもまだまだニーズがある。
*Clinical decision rules:CDRsは有用か?
既存のCDRsのプライマリ・ケア領域における妥当性の研究はニーズが高い。新しいCDRsを開発しその妥当性をしらべることも必要。CDRsのシステマティックレビュー~Meta analysisはお金がかからず、面白く、そして臨床家の役にたつ研究である。
*一般的な治療はどのくらい有効で安全なものなのか?
この領域に関してはシステマティック・レビューや益及び害に関するメタアナリシスはお金がかからない研究デザインであり、かつ非常に有用な結果を提示できる。その際、発表されていないデータを含めて検討するとより素晴らしい。発表されていないデータをいかに入手するかの方法を見つけよう。
*予後あるいは自然経過はどのようなものか?
疾患の予後や自然史はまだ良くわかっていない。よくある症状はどのくらい持続するのか?という疑問は古くてあたらしい。そして、PBRNによる研究がよりフィットしやすい領域でもある。電子カルテのネットワークがキーになるが、それは患者の受診エピソードとケアの内容の同定が必要だからである。またシステマティックレ・ビューのよい対象領域でもある。
3.「イノベーティブでお金のかからない研究デザイン」
Ebellは以下の方法をあげています。印象的なのは、メタアナリシスやシステマティックレビューをきちんと研究として位置づけていることです。また質的研究も重要だといいます。
- Clinical vignettesを使った研究
- メタアナリシス
- サーベイ
- 質的研究
- 費用対効果研究、決断分析研究
- ~ただしトレーニングが必要で、モデレーターを要する
- 2次データの解析
- データ・マイニング法
Ebellは2つの研究グループの実践を例示していますが、論文発表の件数に比して、非常にCheapに研究をすすめているのが印象的で、意を強くします!笑
研究事例1:急性上気道感染症の研究
方法:診断検査評価、Classification and Regression Trees modelling、メタアナリシス、システマティックレビュー、Decision rule開発と妥当性検討、Clinical vignettes研究(臨床現場で出会う場面を設定して、医師の判断などをしらべる研究)
共同研究者:13名
発表論文:9本
研究資金:1600ドル(およそ16万円)
研究事例2:DNRの意思決定に関する研究
研究方法:サーベイ、カルテレビュー、多変量解析、Classification and Regression Trees modelling、ニューラルネットワーク、メタアナリシス、Decision rule開発と妥当性の検討、費用対効果分析
共同研究者:16名
発表論文:17本
研究資金:0ドル!!
4.まとめとして、いくつかの教訓
- 人的ネットワークの構築とと協働をすすめること:これはPBRNの構築が相即的にあてはまなるなと思います。
- 毎年同じ学会や研究会にでて、積極的に関わること:継続は力なりですし、人のつながりもそこでできます。
- 自施設で、Speed-dating(お見合いパーティ) for researchのセッションをやってみる:一つか2つの研究アイデアを3分間でプレゼン、5分でディスカッションし、共同研究をしてくれるひとを見つける(ここが告白タイムか?笑)。アイデアを揉んで整理する。このプロセスを参加した研究者全員にやってもらう。で、おわったら懇親会を行う。これ面白そうです。やってみたい。
- ある程度の研究のトレーニングを受けること:慈恵医大のプログラムなんかが非常にいいと思います。かならずもPhDコースとかでなくてもいいと個人的には思います。
貧者のための研究手法がいろいろあって意を強くもちました笑。ただ、時間の確保が最大の課題でしょうか。
これからも研究活動続けていきたいものです。