日医かかりつけ医機能研修制度については、日本医師会が「かかりつけ医機能」に関して以下のように「定義」を明示しているところに注目すべきであろう。
1.患者中心の医療の実践
2.継続性を重視した医療の実践
3.チーム医療、多職種連携の実践
4.社会的な保健・医療・介護・福祉活動の実践
5.地域の特性に応じた医療の実践
6.在宅医療の実践
この1.〜6.で列挙された項目に使われている用語が国際的に通用する内実のある用語として用いられているとすれば、これらを実践できる能力=コンピテンシーは、現代的な意味での地域基盤型プライマリ・ケア担当総合診療医、すなわち家庭医(General PractitionerあるいはFamily Doctor)と「全く」同義である。
これらのコンピテンシーを身につけるためにいわゆる専門研修プログラム(レジデンシー)があるのであってみれば、これらのコンピテンシー群を、出自がきわめて多様な日本の開業医、診療所医師、一部の病院医師などの現実にプライマリ・ケアを担っている、担わざるを得ない医師集団に実装するための方略は相当困難であることが予想される。すくなくともこれまで様々な国とそこにおけるヘルスケアシステムが取り組んできたそのようなプログラムは相当練り込まれたものだったが、エストニア等を除けば必ずしも成功しているわけではない。
少なくとも日本医師会のこのプログラムが採用しているような、講義&見学あるいはシャドゥイングといった方略で、国際常識にみあう家庭医のコンピテンシーを実装できると想定するのは、あまりに非現実的であり、ある種のExcuseではないかという疑念をもつむきもあるだろうと思われる。おそらく実際に運営側もそう考えていないのではないだろうか。
ところで、私自身も中心メンバーのひとりとなって6年前に構想・構築した以下の慈恵医大の家庭医療ブラッシュアッププロジェクトは、実は現在はじまった日医かかりつけ医機能研修制度と、奇しくも同じ対象と目的を想定したものであった。
このプロジェクトの3年間の運営経験から現時点で言える教訓は、
1.10人以内の学習コミュニティ形成がもっとも重要である。学習共同体Learning communityの形成については、参加する医師の出自がバラバラでよく、同じ地域の医師である必要はない。助け合い、学び合う気風は日常業務で疲れた医師の間でも発生しうることを実感した。
2.自ら課題設定し、調べ、発表=共有する成人学習の原則を徹底すること。成人学習理論は一部のシニカル理性の医師の間でいわれているような「虚妄」ではない。
3.テーマ別の講義、疾患別の講義ではなく、複雑なケース・事例にもとに放射的なディスカッションに基づく課題設定のプロセスが重要であること。
4.自分で担当したテーマについては、文献だけでなく、自分の診療圏に関連した役所や地域の多職種などに直接会いにいって、インタビューしたり、ケースを共有する中で深める参加者が多かった。これも成人学習の原則を自然に参加者が生かしていた。
5.やはり月1回のFace-to-FaceのDirect Communicationの機会が重要であり、すべて遠隔ではなかなか学習が進まないこと。
6.このコースの修了生がファシリテータとして成長しうること
7.費用に関しては、参加者が本当に意義のある学びだと感じれば、ある意味「いくらでも」出すという意見が多かったこと。
といったところである。
まとめよう。かかりつけ医機能を、それなりに意欲のある既存プライマリ・ケア担当医に実装させたいのなら、現在行われている「日医型」ではなく
- 成人学習理論に基づくカリキュラム構築
- 学習コミュニティの形成
の2つがポイントである。カリキュラムの原型はすでに開発済みである。
まずは1年間継続する10名からなる学習コミュニティを全国に100くらい作ること、各県に2つくらいのコミュニティを形成してみよう。そこでCase-basedの月一回の4時間位のセッションを実施するのだ。ファシリテータは新世代の家庭医療専門医や総合診療専門医が担ってくれるだろう。このコースが2−3クールできれば、コース修了者がファシリテータを担うことができるだろう。
そして、学習コミュニティはコース修了後も継続することが可能であり、メンバーの日常診療の重要なリソースとして機能するだろう。
今後日本の10年間において、真のかかりつけ医機能=家庭医のコンピテンシーのプライマリ・ケア医への実装は重要課題である。日医が自らのパブリックイメージ〜昭和レガシー的既得権益集団という一般のイメージ〜からの脱却を本気で考えるなら、こうした大胆な施策にリソースを投入すべきだと思うのだ。