医師誘発性困難事例の類型

 地域医療において,複雑度の高い,対応の難しいいわゆる困難事例に対応することは,地域基盤型プライマリ・ケア担当総合診療医=家庭医としての重要な仕事です。

 この何年かの間に様々な地域や集まりで,地域の難しいケースに関して,家庭医として相談にのることががありました。で,医師や医師グループの知識,技術,態度,価値観,慣習などにより事態が複雑になっているというパターンをかなり発見しました。いくつかの類型に分類し,これらを医師誘発性困難事例と密かに呼ぶようにしています。

 

医師誘発性困難事例のパターン

1.健康問題が複数で,つまり多疾患併存状態で,それぞれの疾患に対して担当医がいるポリドクターの状態。情報が散逸して,しかもだれが最終的にまとめ役になるのかがはっきりしない場合

2.現在の担当医が訪問診療を行っていないため,「通院することがリハビリになる」という謎の論理を主張し,在宅ケア移行を先延ばしている場合。そのため必要なサービスの導入がとてもやりにくい

3.担当医が在宅医療に熱心すぎるケース。「自分がこの患者のことは一番わかっている」と信じており,スピリチュアルから看護,人生観から死生観,医療システム論まで高い見識をもっていると思っており,看護や介護職が自分の思うとおりに動かないと「君たちはわかっていない」とおこったりして,チームが萎縮している場合

4.ケアマネージャーや介護担当者からの情報提供(最近良く転ぶ,元気がない等の漠然とした高齢者独特の症状・経過等)に対応するための老年医学的アプローチをしらない。例えば,食欲が落ちているという訴えに対して「ん~内視鏡は異常ないですけどね」といった答えを返している場合

5.なぜか大病院医師が主治医意見書を記載している場合。外来単位が少なすぎて,ケアマネージャーや在宅チームが連絡がとりにくい。また,病院から患者が退院したあとも家族に対して「なにかあったら連絡してください」などと,家族にたいして主治医であることを悪気なく提示してしまう。在宅での意思決定がそのため非常に煩雑になることが想像できない

6.高齢者の総合的な診療のトレーニングを受けずに在宅医療あるいは地域医療に参入してきため, 症状に対する臨床推論が不適切で,熱がでたり,たべられなくなったり,うごきがわるくなったりするとすぐ入院させてしまう

7.薬剤の副作用(抗認知症薬による興奮など)に気づかず,逆に処方薬がどんどん増えていく。特にトランキライザーが重ねられている場合

 

 以上は自分自身への戒めでもあります。地域医療は簡単ではないのです。

FOG